【映画評】夜は短し歩けよ乙女

京都。大学のクラブの後輩である“黒髪の乙女”に想いを寄せる“先輩”は、なるべく彼女の目にとまる作戦(頭文字をとってナカメ作戦)を実行し彼女の気を引こうとしている。ある夜、酒豪の乙女は飲み歩き、先輩は、春の先斗町、夏の古本市、秋の学園祭と彼女の姿を追い求めるが、季節はどんどん過ぎていくばかりで乙女との距離はいっこうに縮まらない。さらに先輩は、仲間たちや不思議な老人による珍事件に巻き込まれていく…。

京都を舞台に、大学の後輩の黒髪の乙女に恋する先輩の恋模様を摩訶不思議な世界観で描くアニメーション「夜は短し歩けよ乙女」。原作は「四畳半神話大系」の森見登美彦の同名小説だ。何しろ「MIND GAME(マインド・ゲーム)」の奇才監督・湯浅政明の13年ぶりの新作アニメというだけでワクワクしてしまうが、期待通りの“自由な”作品である。酒好きの乙女が京都の街を飲み歩くが、彼女に恋する先輩はことごとくタイミングが合わない。奇妙なエロおやじ、個性的な大学生、謎の老人と、次々にヘンテコな登場人物が現れるが、乙女は、時に愛あるパンチを繰り出しつつも、すべての人に優しく礼儀正しい。時間や空間の概念が覆される物語もさることながら、のっぺりとしたイラストのような絵柄とカラフルな色彩のビジュアルが非常に新鮮だ。形も色も動きさえも、自由すぎるほど変幻自在に変わるそのテイストは、リアルとは対極にある。

今やアニメーションは、いかに実写に近づくかを目指して奮闘している感があるが、本作は、アニメーションの特権である自由奔放さを爆発させている。このマジカルな心地よさは、酒豪の乙女が際限なく飲む酒に酔いしれるかのような、酩酊感とでも言おうか。ゲリラ演劇のミュージカルパートにいたっては、完全に酔いが回って幻覚を見ているような気さえする。そして恋する男女の運命には、最高の着地点を用意しているのだ。先輩の声を担当する星野源が、膨大なセリフをまくしたて、存在感を示す一方、他のキャストは実力派の声優たちで手堅い作りだ。93分、稀有な映像体験が味わえる逸品である。
【75点】
(原題「夜は短し歩けよ乙女」)
(日本/湯浅政明監督/(声)星野源、花澤香菜、神谷浩史、他)
(酩酊感度:★★★★★)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年4月9日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式Twitterから)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。