民間はリストラ、政府は膨張の一途
今村復興相が記者会見で激高し、フリージャーナリストと大ゲンカしている様子をテレビで拝見しました。「今の発言を撤回しなさい」、「応じません」とやり合っていました。発言の撤回を求められたのは記者であり、どちらが大臣でどちらが記者であるか分からないような問答です。押し問答の末、大臣は「うるさい」との捨てゼリフを残して退室しました。
福島原発事故で地域が汚染され、他府県に自主的に避難した人たちに対する住宅支援の問題です。期限がきて補助が打ち切られるのは非情ではないかと責めるたてる記者に対し、「安心できないので帰還しないというのは、自己責任だよ」と、大臣が答えました。記者が「そんなの無責任だ」と反発すると、大臣が激高したという展開です。波紋は大きく、首相の謝罪にまで発展し、復興相は「感情的になってしまった。発言は撤回する」で幕です。要約するとこうなります。
悲惨な原発事故の被害者を前、こんな押し問答をしたら、目立つ部分だけ、切り取られて放映されるということくらい閣僚は分かっていなければなりません。このジャーナリストは10回近く、執拗に挑発的に質問を繰り返したらしく、相手を怒らせるのを目的にしていたとの解説も聞かれます。どっちもどっちという展開でも、大臣が一方的に悪いという印象を視聴者や読者に持たれてしまいます。映像、ネット時代というのは、事後の弁明というのは後の祭りなのです。
私には、この種のトラブルの本質はどこにあるかに関心があります。「テロ等準備罪」法案担当の金田法相が国会質疑で、不勉強、理解不足の答弁を続け、行き詰まると、「理事会で協議していただいています」、「法案が成案となって国会に提出された後、法務委員会で論議します」を繰り返し、「無能答弁だ」との批判を受けました。
長期政権で議員の入れ替わりが減る
お二人の所作を見ていると、閣僚の適任者の不足を感じます。新政権が誕生すると、初めは能力を重視して適材を要所に置きます。それが安倍政権のように長期化してくると、能力に応じてではなく、順番を待っている待機組にポストを配分することが増えてきます。国政選挙をやっても、安倍政権が続いているので、議員の入れ替わりが少なく、閣僚をこなせる適材が払底していくのです。安倍首相は総裁3選(9年)が濃厚とされますので、こうした傾向は強まる一方でしょう。
次に、安倍政権になってますます巨大な政府になっています。内閣法で、閣僚ポストは原則14人とし、必要があれば3人まで増員できることになっています。今回、大震災後に復興庁設置法で復興相が誕生し、東京五輪特措法で五輪担当相、一億総活躍担当相、さらに地方創生担当もおります。とにかくロシア経済協力、知的財産戦略、社会保障、デフレ脱却、マイナンバー制度、教育再生だのと、安倍政権は思いつけば手当たり次第、担当任務を新設してきました。
小選挙区制で選ばれてくる議員は地元や地域の利益ことには詳しくても、安倍政権が次々に持ち込む計画、目標をこなせる力を持っているのでしょうか。担当閣僚は官僚の説明を聞くだけで、精一杯となり、消化不良を起こしているでしょう。失言、暴言、理解不足がひんぱんに繰り返される根源は、政府の肥大化と人材不足にあります。
政府の肥大化は民間の活力を奪うが
次いでに申し上げると、政府が大きくなれば、官僚は予算を獲得しようと行動しますから、財政赤字は減るはずはありません。安倍政権の言っていることと、やっていることは矛盾しているのです。本気で財政再建しようとするならば、省庁のスリム化、行政改革です。民間は必死でリストラをやり、政府はその逆をやり、その果ての騒動です。
最後に失言、暴言は歓迎されているのかもしれません。与党を追及できるチャンスが巡ってきたと、野党が喜ぶのです。与党の連中も、これで閣僚ポストに自分は近づいてきたと思うのではないでしょうか。さらに言えば、失言、暴言はテレビ、ネットの格好の題材ですか。視聴率をとれますから、表むきは批判しながら、腹のうちでは、歓迎なのでしょう。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2017年4月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。