先月26日、モスクワ、サンクトペテルブルク、ウラジオストクなどロシア82カ所の都市で政治家、経済界の腐敗・汚職を追及するデモ集会が開催された。モスクワだけでも1030人のデモ参加者が逮捕された。その中には大学生や高校生などの若者の姿が多かった。
独週刊誌シュピーゲル(4月1日号)はプーチン大統領時代しか知らない若い世代がモスクワや各都市で反腐敗のデモ集会に参加したことに対し、「若者たちは硬直した国内政治から国を目覚めさせようとしている」と述べる一方、「新しい世代のアイドルは反政府活動家のアレクセイ・ナバリヌイ氏だ。彼はプーチン大統領を更に脅かす存在となるかもしれない」と報じている。
ロシアでは5年前、反プーチン大統領のデモ集会が各地で開催されたが、反体制派活動家たちは徹底的に弾圧され、刑務所などに送られた。当時、「モスクワの春」と呼ばれ、欧米メディアではロシアの反政府運動に熱いエールを送る記事が少なくなかった。
しかし、プーチン政権が反政府運動の弾圧に乗り出して以来、反プーチン大統領を掲げたデモ集会は政治の表舞台から消滅していった。ロシアでは反政府デモに参加したことが分かると、学校から追放され、職を失う危険性が高いばかりか、刑務所に長期間拘留されるケースが少なくない。
それが先月26日、10代後半から20代初めの青年たちが路上で反腐敗デモに参加する姿が多数見られたのだ。ロシアの政治学者は「25歳以下の若者たちがこれほど多くデモ集会に参加したことは近年見られなかったことだ」と驚きを持って受け止めている。
シュピーゲル誌の狙いは、ロシアの若い世代がなぜここにきて政治活動に乗り出してきたのか、その背景を分析するところにあることは明らかだ。
若い世代にとって、ロシアの指導者といえば、1999年以来政権に君臨してきたプーチン氏しか知らない。生まれた時から今日まで、プーチン氏が常に国家のトップだった。そして、ロシアではプーチン氏への支持は依然高いのだ。
その若い世代がスターと仰いでいる政治家がいる。ナバリヌイ氏だ。40歳で弁護士、2014年には反汚職、親欧州路線の政治を掲げて2011、12年の反政府デモの指導者であり、モスクワ市長選候補者でもあった。ハンサムな容貌で逮捕を恐れない言動は若者たちに人気を呼んでいる。自身のブログで政治家たちの汚職を次々と暴露してきた。デモ集会の3週間前にも、プーチン大統領の忠実な側近、メドヴェージェフ首相の腐敗を暴露する記事をインターネットに流している。
ロシアではナバリヌイ氏の活動は完全に無視され、国営テレビで報道されることはないが、若者たちはインターネットを通じて同氏の活動をフォローしている。3月26日のデモ集会は、若者たちがインターネットを通じて知り、その呼びかけに応じたのだろう。
シュピーゲル誌は、「若者たちはプーチン大統領に抗議するために路上に出てきたのではない。ロシア社会を覆う停滞感に対しやり切れない思いから路上に出てきたのだ」と記している。ロシアの若者が政治的に目覚めたのかを判断するのは難しいが、彼らはナバリヌイ氏に信頼感を持ち始めているのだろう。
参考までに、ウクライナの社会学者アンナ・シュル・ツュドノヴスカヤ(Anna Schor Tschudnowskaja)氏はオーストリア代表紙プレッセ(4月7日付)にシュピーゲル誌と同じように「なぜロシアの若者たちが路上に出てきたか」をテーマに寄稿している。同氏はその中で、「プーチン氏の政権掌握後に生まれてきた世代(Die erste Generation Putins)は次第に目覚め、自己現実化を求めてきたが、その為には未来への見通しや倫理的方向性が不可欠だ。しかし、ロシア社会では目下、それらが見当たらないのだ」と説明、ロシアの若者たちが置かれている現状を分析している。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年4月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。