【映画評】T2 トレインスポッティング

渡 まち子

提供:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

麻薬の売買でつかんだ大金を仲間たちと山分けせずに逃亡したレントンは、20年ぶりにオランダから故郷のスコットランド・エジンバラに舞い戻る。実家では、母親はすでに亡くなり、父親が一人で暮らしていた。悪友たちのその後が気になったレントンは彼らを訪ねる。表向きはパブを経営しながら、売春、ゆすりを稼業とするシック・ボーイ。家族に愛想を尽かされ、孤独に絶望しているジャンキーのスパッド。刑務所に服役中のベグビーは、脱走を画策中。モノ分かりの良い大人になれずに荒んだ人生を送る彼らは20年の時を経て再会するが…。

90年代のポップ・カルチャーをけん引し社会現象を巻き起こした映画「トレインスポッティング」の20年後を描く続編「T2 トレインスポッティング」。監督のダニー・ボイルは今やオスカー監督の名匠。再集結した主要キャストたちも、それぞれ年齢を重ね、ユアン・マクレガーにいたっては「スター・ウォーズ」に出演するほどの大スターになった。一方、物語の中の4人は、誰一人大人になりきれず、悪あがきばかりしている。だが彼らにはそれが似つかわしい。実際、20年という時は、彼ら4人にも観客にも等しく流れた時間であって、そこには変わってしまったものと変わらないものがあって、当然なのだ。両方をきちんと描いてこそ、続編を作る意味があるのである。大金を持ち逃げしたレントンは皆の恨みを買ってはいるが、それでも何かと理由をつけ、仲間とつるんで遊ぶ姿は、シック・ボーイの恋人ベロニカがやきもちをやくほど。このブルガリア娘のベロニカが絶妙にからむストーリーが巧みで、今の時代の空気をしっかりとつかみとっている。

ダニー・ボイルの音楽センスや映像センスも冴えわたり、レントンたちが年をくって冴えないオッサンになってしまっても、それなりのスピードでの疾走感を維持してくれているのが、微笑ましい。まっとうではない金を持っていても幸せにはなれなかった。何とかして事業を始めて変わろうとしても、世の中はそう甘くなかった。社会の底辺で生きるクズどもはぶざまにもがくばかり。それでも人は生きていかねばならないのだ。ほろ苦くて懐かしい同窓会に出席したような気分である。
【70点】
(原題「T2 TRAINSPOTTING」)
(イギリス/ダニー・ボイル監督/ユアン・マクレガー、ユエン・ブレムナー、ロバート・カーライル、他)
(疾走感度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年4月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。