小泉進次郎議員の演説の上手さは数学的な「間」にある

尾藤 克之

写真は講演中の深沢真太郎氏

読者の皆さまは、「数学コトバ」をご存知だろうか。たとえばカーナビが発する「100メートル先の交差点を、右折です」というフレーズ。100メートルという正確な数字。交差点という具体的な情報。右折という方向づけ以外の余計な情報は一切ない。

カーナビが「100メートル先の交差点を、右折です」と伝える。あなたは、その認識で運転を続ける。すると交差点の手前で右折という指示があるので、何の迷いもなく交差点の右折レーンに車を進めることになる。

「事前に進行方向を教えてくれるから、スムーズにその方向に進めるのです。これは車の運転だけに当てはまることではありません」と語るのは、数学の専門家として知られている、深沢真太郎(以下、深沢氏)である。日本数学検定協会「ビジネス数学検定」国内初の1級AAA認定者であり講師や大学教員として活動している。

■数学コトバの両脇に1秒の「間」をつくる

――数学とは数字ではない。言葉を使う学問である。実際に数学に関連する書物はすべて“コトバ”によって構成されている。「数学コトバ」とは、数学的に考えて伝えることの意味である(少なくとも私はそのように理解した)。

「もっとも実践しやすいのは、一文を話し終えたときです。短文→ (間) →数学コトバ→ (問) →短文。この流れが伝えやすくするポイントです。そして、この考え方を実践する政治家がいます。小泉進次郎氏です。話が上手でわかりやすいと定評がありますが、実際のところ、公の場ではどんな伝え方をしているのでしょうか。」(深沢氏)

「以下は、2016年の参院選を控え、小泉氏がある候補のために登壇した応援演説の一部です。ちょうどイギリスが国民投票によって欧州連合(EU)から離脱すると決めたときです。▽は、およそ1秒の「間」を表現しています。

イギリスは▽今回EUから離脱という▽歴史的な▽動きがありました。▽あのときイギリスは▽離脱をしたいと言った人たちは▽ 51·9%。▽残留したいと言った人たちは▽ 48·1%。▽つまり▽2%数字が違ったら▽ひっくり返っていたんです。

このとおり、とにかく短文を使います。必要な箇所には数学コトバが置かれています。きわめて短い単語ですから、常に短い間隔で『間』が生まれることになるのです。」(同)

――参考までに、いまの文章の文字数は、句読点を除いて96文字である。間を表す▽は11箇所ある。ざっくり言って、9文字から10文字に1度は1秒の「間」があるということになる。この間が聞きやすさを演出していたのである。

■数学コトバは進行方向を教えてくれる

――小泉氏が専門的なトレーニングをしているのか否かは定かではないが、少なくとも、非常に数学的でわかりやすい伝え方だと言うことになる。

「日常の会話においても、数学コトバが聞き手に進行方向を教えてくれるのです。あなたが『なぜなら』と 言えば、聞き手は次にあなたが述べる内容が『理由』であることを瞬時に理解するでしょう。すなわち、その話の進行方向が『理由』になることを事前に知るのです。」(深沢氏)

――「数学コトバ」はアタマを論理的に変えることができる。そして、デキる人は「数学コトバ」を使っていたことにも気がつくことだろう。

参考書籍
「伝わらない」がなくなる。数学的に考える力をつける本』(講談社)

尾藤克之
コラムニスト

※アイキャッチ画像はWikipediaより

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