きょう紹介したOECD(経済協力開発機構)のレポートは「日本政府はこれ以上借金をふやしてはいけない」と警告していますが、こんなむずかしい話はふつうの人にはわからないと思うので、おときたさんのきょうのツイートを教材にして、よい子にもわかるように解説しましょう。
彼は高橋洋一さんの「『日本の借金1000兆円』はやっぱりウソでした~それどころか…なんと2016年、財政再建は実質完了してしまう! 」というコラムにだまされたようで、ブログにはこう書いています。
日銀と政府を一体のものだとみなして、政府が発行する国債の日銀引き受けを実行し続ければ…国債を発行して借金をするのは政府でも、それを買い取って資産にするのは日銀なんだから、差し引きゼロ!
詐欺師の話は100%ウソということはありません。本当の話とウソをまぜるのです。この話の「日銀と政府のバランスシートは一体」だというのは本当です。もともとマクロ経済学には、政府と中央銀行のバランスシートの区別はありません。
しかし日銀が国債を買ったら「差し引きゼロ」になるんでしょうか? そんなフリーランチがあるなら、日銀が国債をすべて買ったら、財政再建は終わります(高橋さんはそう書いています)。税金もゼロにできます。なぜ日銀は無限に国債を買わないんでしょうか?
それは日銀券も国民に対する借金だからです。お札は借金の証文みたいなもので、国の借金という点では国債と同じですが、金利がつきません。だから金利のつかない日銀券を発行して金利のつく国債を買うと、日銀はもうかります。日銀はこの利益(通貨発行益)を「日銀納付金」として国に収めています。
でも金利が上がると困ります。日銀が買った国債の金利が上がるということは国債価格が下がるということですから、日銀は大きな評価損をかかえて債務超過(借金が資産を上回る)になります。国会で黒田総裁が認めたように、「長短金利が2%上昇すれば、平均残存期間8年の日銀保有国債の時価は約14%低下をして、そして日銀の損失は51兆円になる」。
日銀のもっている国債の価格が半分になったら、日銀がそれを売っても半分しか返ってきません。こんなに損すると普通の会社なら借金を返せなくなりますが、日銀は返せます。輪転機をぐるぐる回してお札をいくらでも印刷できるので、日銀はつぶれません(印刷するのは国立印刷局ですが)。
国債の価格が半分になることはありえないが、金利2%ぐらいはあります。国債(9年物)の金利は次の図のように、1974年に発行され始めたときは8%台で、バブルの時期には10%を超えたこともあります。2%を切ったのは1997年で、それ以来ずっと低金利が続いていますが、この世界史上最低の金利が今後も永久に続くことは考えられません。
アメリカなどが金利を上げ始めたので、日銀も国債の買い入れを減らす「出口戦略」を考えていますが、それに失敗すると金利が上がります。ハイパーインフレにならなくても、長期金利が2%上がるだけで破綻する銀行が出てくるでしょう。取りつけ騒ぎが起こると日銀が救済しないといけませんが、その日銀が債務超過だと政府の支援が必要になります。
おときたさんは「小さな政府」がお好きなようですが、日本はすでに社会保障を含めると、世界有数の大きな政府になっています。それを借金でごまかしているだけです。こんなこともわからないようでは、国会議員は無理ですね。東京都の財政は今は大丈夫ですが、長期的には高齢化で維持できません。「日銀が無限に地方債を買えば大丈夫」なんて思わないでほしいものです。