中国が北朝鮮向け石油供給を止めたら?

岩瀬 昇

北朝鮮人民軍創設85年目の2017年4月25日の朝、産経新聞が「中国、石油供給の大幅制限を警告か 平壌発AP通信『ガソリン価格が高騰』」という記事(電子版2017年4月24日19:59北京発)を報じているのを読んで、弊著『日本軍はなぜ満州大油田を発見できなかったのか』(文春新書、2016年1月)を思い出していた。単純化していえば、真珠湾奇襲攻撃は米国が日本向けの石油供給を途絶したことが直接の原因だ。中国が北朝鮮向けの石油供給を止めたら、北朝鮮はどうするのだろうか?

産経新聞は「中国共産党の機関紙である人民日報系の環球時報が4月24日の社説で『もし北朝鮮が6回目の核実験を行えば、中国は疑いなく、石油の貿易制限を含む、より厳格な国連安保理制裁決議の採択に賛成する』と断言した」と書いている。

またAP電が22日、平壌のガソリンスタンドで19日から供給が制限されたり、価格が倍に急騰したり、閉鎖に追い込まれたガソリンスタンドもある、政府による備蓄が始まったのか、あるいは中国の供給制限がはじまった可能性もある、と伝えていることも紹介している。

ところで、北朝鮮の石油事情はどうなっているのだろうか? ほとんど報道されたことがない。
ネット検索をしたところ、2006年1月13日にJOGMECが「北朝鮮:中国との石油共同開発合意でエネルギー事情はどうなるのか?」というレポートを掲載していた。少々古いので、IEA(国際エネルギー機関)のHPを検索してみた。すると、北朝鮮に関するカントリーデータを報じている。2014年のデータだが、おおよその実態は把握可能だろうから、少々紹介しておこう。

IEAデータによると、北朝鮮の2014年の一次エネルギー総消費量は石油換算1,045万トンで、日本の4億4,880万トン(2015年、BP統計)の約40分の1だ。

消費の内訳は、石炭が約7割の745.3万トン、石油が約5%の57.4万トンとなっている。
石油だけを見ると、日本(1億8,960万トン)の約0.3%に過ぎない。極めて少量だが、石油がなければ「輸送」は出来ないから大問題だろう。
供給データを見ると、石油は、国産はゼロで、原油として53.6万トン、石油製品として31.1万トンが輸入されている。

前述したJOGMECレポートによると、原油も石油製品もほぼ全量が中国からの輸入に依存しているそうだ。つまり、中国に首根っこを押さえられているのだ。

原油は、粘度が高い大慶原油がパイプラインにより、中国遼寧省から北朝鮮北西部の安州市郊外の製油所に送られている。このパイプラインは1976年から使用しているもので、老朽化が進み、種々問題があるだろう。

重油もパイプラインで供給されているらしく、2003年2月には3日間供給が途絶したことがある。中国側は、表向き技術上のトラブルが原因と説明していたが、真の理由は、今回と同じように国連による経済制裁の一環として中国が行ったものと見られていた。

他にトラックやバスの燃料であるディーゼル油や少量の自動車用ガソリンも輸入されているが、これはおそらく貨車か自動車による輸入だと思われる。

北朝鮮も、中国に首根っこを抑えられている現状からの打開策を検討しているだろう。そこで登場するのがプーチン・ロシアだ。日本が入港禁止措置を取っている万景峰号を利用して、来月から月6回程度の定期航路をロシアのウラジオストックの間に就航させる、とのことだが、「乗客200人、貨物1,50トン」を輸送する予定と伝えられることから、石油製品の輸入にも使われることだろう。

全量石油製品を運んでも、月に9,000トン、年間で10万8千トンに過ぎない。中国に頼らざるを得ない基本構造は不変だろう。

ちなみに石炭は国産が1,860万トンあり、半分以上が輸出されている。最近、中国が経済制裁の一環として輸入を中止した、と伝えられているのがこの石炭だ。北朝鮮にとっては重要な外貨獲得資源なのである。

経済合理性を考えれば、金正恩は習近平の言うことを聞かなければならないのだが、人は必ずしも全面的に経済合理性だけでは動かないのも真実だ。それは、太平洋戦争への道筋を思い起こせば容易に想像がつくことだ。
やれやれ。


編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2017年4月25日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。