企業人事の最大の課題は、成果につながる行動のできる人の登用と処遇にある。成果につながる行動に対する報酬は、成果につながる蓋然性が高いとしても、時間の問題はまた別で、基本的には、実際の成果が生じることに先んじた先払いの報酬である。
成果につながる行動のできる人材を二つに分ける。企業が定義した成果を期待されている人材が債務人材、自分が定義した成果を実現するのが資本人材である。いうまでもなく、企業の成長を牽引するのは資本人材であり、それを強力に補佐するのが債務人材である。
債務人材の報酬には企業としての具体的な成果期待を織り込めるが、資本人材の報酬には織り込めない。故に、資本人材の報酬設計においては、成果実現後の後払いの要素を織り込む必要がある。この資本人材の後払いの設計こそが企業の革新的成長の鍵だ。
債務人材にしても資本人材にしても、企業の中核人材だから、辞められたら困る。故に、人事制度上、引き止め機能を設計しておかなくてはならない。それは後払い報酬の設計になる。代表的なものは退職金制度だが、この退職金、伝統的な退職金とは全く異なった思想のもとで、企業の人事戦略の重要な機能を担うものとして設計されなくてはならない。
債務人材は先に期待において処遇されているので、期待通りの成果を実現するのが当然だから、賞与という概念を入れる余地はない。年俸制が普及する理論的根拠である。なお、債務人材については、期待以上の成果を生んだときは、賞与があり得るが、むしろ、賞与ではなく、登用により期待報酬を引き上げることで対応するのが合理的だし、それが普通である。
資本人材の成果に対する報酬は、明確に後払いであり、また同時に、最も賞与らしい性格を帯びている。金額的にも、人事戦略的にも、伝統的な賞与の概念を超越するような設計になるはずだ。そして、その退職金の設計は、その賞与を繰り延べる形になるのが普通であろう。また、資本人材は、その名の通り、ストックオプション等の自社株式を使った処遇がふさわしいことは論を待たない。
森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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