業務負担増、人材不足、人件費の経営圧迫、中小企業の経理担当は多忙である。最近では経理業務がクラウド化したことによるメリットが語られている。ところが、クラウド化どころか未だに現場で幅を利かせているのは実は「Excel」である。
『ベテラン税理士だけが知っている自動経理の成功パターン』の著者であり、税理士・行政書士として活動をする、堂上孝生(以下、堂上氏)は、Excel使用は好ましくないと警鐘を鳴らす。今回はExcel使用でもたらされるリスクについて聞いた。
■Excelを使用することのリスク
――Excelでの自己流経理は知らぬ間に脱線を引き起こす。中小企業の中には、Excelを使って経理をしている人が少なくない。しかもテクニックは秀逸で、複雑な表計算も思いのままに使いこなす猛者もいる。
「Excel操作が得意な人たちには、私も手を焼いています。これは、税務の大半を理解できず、全体が見えていないような人が多いからです。たとえば『工学博士』などの肩書きの方は、Excelを達人級に使いこなしますが経理センスがゼロの人がいます。経理を複式簿記でやり、使った経費はたいてい費用に落とし、好き放題の利益操作を繰り返す損益計算をするのでやっかいです。」(堂上氏)
「さらに、公私混同の資産負債の残高計算、億単位の資金を費用に使って平気でキャッシュフローの赤字に気付かない資金収支。月次推移として継続的に見るだけでも、すぐに異常ベルが鳴りそうな決算書。これに気がつかないのです。」(同)
――国税局レベルの査察が入るケースは、おおむね脱漏利益が1億円を超すような規模の企業が対象になる。毎年同じことを繰り返し小規模ゆえに見つからない「無意識の脱税」予備軍が無数にいるのが現実らしい。
「この不正は、マイナンバー制度の導入で、数年後には露見確率が上がり、税務署レベルでも調査実績が上がるといわれています。おそらく事前に対策すれば、大幅に合法的な節税が可能なものばかりです。その事前対策もかねて『無料で使える素人向きのクラウド会計ソフトを利用しましょう』と言いたいのです。」(堂上氏)
「経済活動を行う能力を持ち合わせながら、『無意識の脱税』という反射活動に陥るのは、絶対に避けたいことです。」(同)
――次に、Excelと簿記の関係を考えたい。白色申告の帳簿作成はExcelなどの表計算ソフトで可能か検討した場合、実務的な観点は別として法律的にはまったく問題がない。簡易な方法でよいからである。
「しかし、Excelでは複式簿記体系にはシンクロしていません。したがってExcel情報は、簿記体系としての会計ソフトにはインポート、エクスポートはできないのです。複式簿記体系とは、たとえば、『売掛金の発生』と『損益計算』上の売上計上の両方を同時に行う仕組みです。Excelで行った請求書発行をしただけでは、会計に必要な複式簿記はできません。Excelで行う経理では、帳簿体系の検証機能がありません。」(堂上氏)
「数値の整合性がとれていないので、外部に出す帳簿としては補助資料にはなりません。その数字のつじつまを合わせるのに、大変な労力(費用)が必要になります。」(同)
■Excelは運用には不合理だった
――つまりExcelは、会計帳簿の作成上、コスト面と利便性の両面で大変に不合理だということになる。
「『Excelと会計ソフトで情報授受ができないのは、おかしい』という不満はいまでもよく聞かれます。Excel請求書に関しては、画像としてスキャナ読取だけで処理できるようになりました。しかし請求管理と会計処理を別々のソフトでやっていたのでは、二重手間となるでしょう。」(堂上氏)
「Excelで作成した仕訳帳の会計ソフトへの読取については見込みがたっていません。複式簿記体系の会計ソフトとのシンクロ、アプリは、商業ベースでは採算が合わないので開発には至らないと予想しています。」(同)
――経理業務にExcelを使用している企業は多い。しかし、今後の経理業務の効率的を鑑みると、クラウド会計ソフトによる「自動経理」は有望なツールになりそうである。
参考書籍
『ベテラン税理士だけが知っている自動経理の成功パターン』
尾藤克之
コラムニスト
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