(本記事は前編の続きです。前編をまだ読んでいないという方は、先にこちらをお読みください。)
また、前編で説明した点のほかにも、ソ連崩壊後のロシアをいためつける原因はいくつかありました。
たとえば、この時期、運悪く原油などの資源価格も低迷しました。
ロシアの主産業は、いまも昔も、原油や天然ガスなど天然資源の輸出です。
資源価格が下がると、景気は悪くなります。
そうなると、税収は減り、財政難が加速していきます。
財政難になると、予算の執行がいい加減になったり、公務員の給料がカットされたり、賄賂をもらったり裏金をちょろまかす公務員が増えたりします。
これらは当然、社会全体に悪影響を及ぼします。
また、年金・医療などの各種社会保障制度が、財政難を背景に、廃止ないし大幅カットされました。
いちおう年金や医療のシステムはあったものの、これも財政難から支給水準は低いものでした。
年金だけではとても暮らしていけるレベルには遠く、医療にいたっては入院してから手術するまで何ヶ月も待たされるような状態でした。
ソ連時代、質は低かったものの、医療は基本的に無料でした。
それが財政難により廃止されたり、大幅カットされたりしました。
そうなると、お金のある人はまだしも、お金がない人は医療を受けられなくなります。
これによって、ソ連崩壊後、主に貧しい高齢者や病人を中心に、数百万人の人が死にました。
年金が足りず、貧乏でお金もない人は、医療サービスのお金を支払えませんし、薬も買えません。
結果、ソ連時代に年金や医療などの社会保障で生きながらえていた人たちは、ソ連崩壊前後の数年間で、バタバタと大量に死んでいったのです。
参考までに、ソ連時代の1986年からロシアになった1994年にかけて、男性の平均寿命は65歳から58歳へと7歳も低下しました。
わずか10年たらずでこれだけ減ったのです。
いかにソ連崩壊前後に人がたくさん亡くなったかがわかります。
社会保障がなくなると、社会保障に頼り生きながらえていた人は、本当に簡単に死んでしまいます。
政府が詰んだから仕方ないのですが、現実にそうなると、やはり人の命はどんどん失われていくのです。
(このような歴史を見ると、たとえば「日本の財政が厳しいから、社会保障を高齢者向け医療を中心に大幅に削るべきだ」という方針は、日本政府としてはやりづらいことがわかると思います。
財政の理屈の上では正しいのかもしれませんが、社会保障を削ると人がたくさん死ぬ可能性が出てくるので、人道上の観点から批判されやすいからです。
仮に政府が高齢者向け社会保障の大幅削減をやるとしたら、財政難でにっちもさっちもいかなくなり、やらざるをえない状況に追い込まれたときになると思います。)
さて、ロシアの話に戻ります。
こんなことが続くと、当たり前ですが、社会不安が広がっていきます。
そんな中、1997年からアジア通貨危機が始まりました。
これの余波を受け、ロシアは追い込まれていきます。
そして結局、1998年8月に債務不履行宣言(デフォルト)をします。
その後、預金封鎖やデノミが行われました。
預金封鎖とは、銀行預金の引き出しを制限することです。
たとえば100万円預金してる人がいたとして、このうち90万円は引き出せなくなったら、これは預金封鎖になります。
財政破綻との関連でいうと、政府は預金封鎖した上で、銀行の中にある資産を把握し、それに対し高い税金をかけます。
(日本では戦後の混乱期である1946年2月に、預金封鎖が行われました。その結果、戦前から持っていた旧紙幣はほぼ無価値になりました。)
デノミとは、デノミネーションという英語の略称で、通貨の単位を切り下げることを意味します。
たとえば日本でものすごいインフレが起きて、コンビニのおにぎり1個が100,000円(10万円)になったとしましょう。
これでは計算するのが大変すぎます。
なので政府は「これからは円の単位を1000分の1に切り下げます」と宣言します。
そうすると、今までの1000円は1円の価値になります。
これがデノミです。
これによって、おにぎり1個は100,000円÷1000=100円となります。
これで計算がしやすくなります。
ロシアは、このような政策を取りましたが、混乱はその後もしばらく続きました。
このように、ソ連崩壊後から10年近く、ロシアは苦難の道を歩むことになりました。
なお、このような混乱の中、1990年代後半に表舞台に出てきたのが、あの有名なプーチンです。
本記事のテーマとは関係ないので触れませんが、彼は強いリーダーシップを発揮し、資源価格の回復も追い風にしながら、壊れかけたロシアをまとめていきました。
貴重なお時間を割いて本記事を読んでいただき、どうもありがとうございました。
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