皆さまは、007(Double O Seven)をご存知だろうか。英国のイアン・フレミングによるスパイ小説(映画)に登場する主人公である。MI6に所属する秘密情報部員で、名前をジェームズ・ボンド (James Bond) とよぶ。背は高くハンサムで「The name is Bond. James Bond」と敵陣営に乗り込んだ際、本名を名乗ることで知られている。
精神科医、作家として、精神医学や心理学の情報を発信している、樺沢紫苑(以下、樺沢医師)は、「日本で最もインターネットに詳しい精神科医」として、雑誌、新聞などの取材やメディア出演も多い。樺沢医師は、「脳医学的に考えて、007にボンドガールは必要だった」と次のように答えている。
ボンドガールに隠された秘め事
――樺沢医師は、映画好きで映画評論家としての活動もしている。学生の頃は年間200本の映画を見て、映画研究会に所属していたそうだ。
「当時の人気映画の一つとして『007』シリーズがありました。英国秘密情報部員007ことジェームズ・ボンドが活躍するアクション映画シリーズです。一度は見たことがあるはずです。20本を超える『007』シリーズですが、驚くべきことに、シリーズ第1作から、そのストーリー展開はほとんど変わっていません。」(樺沢医師)
「15分ほどのアクションシーンがあって、アクションが一段落すると別の国へと場面転換します。場面転換の前後に、ジェームズ・ボンドとボンドガールとのお色気シーンが挿入されるのです。」(同)
――これを見ながら、当時、大学生だった樺沢医師はある疑問を抱いた。
「なぜ、007シリーズのアクションシーンは、15分で終わってしまうのか。アクションの合問に、ボンドガールのお色気シーンなんか挟まないで、ぶっ続けでアクションで展開したほうが、おもしろい映画になるのではないか。そもそも、ボンドガールは必要なのかと。」(樺沢医師)
「この疑問は、私が精神科医になってから、つまり精神科医の観察眼を持って『007』の新作を見たときに解き明かされました。ボンドガールは、脳科学的に絶対に必要だと確信したのです。」(同)
集中力は持続しないという事実
――それは集中力に関することだった。集中力の持続は簡単ではない。
「人間はある程度の集中力の持続は可能ですが、『ピークの集中力』、つまり非常に高い集中力が長時間持続するものではありません。では、集中力は何分、持続可能なのでしょうか。以前、同時通訳をしている方とお会いすることがありました ダライ ラマ14世の同時通訳も務めた有名な方です。」(樺沢医師)
「彼女によると、『同時通訳というのは、非常に高い集中力を要するので、せいぜい10分。どんなに頑張っても、15分が限界です』と言っていました。」(同)
――船舶や航空機のレーダー監視、工場の計器監視作業は、ヴィジランス作業と呼ばれている。監視するための注意は浅く広く向けられている。
「ヴィジランス作業では、環境の変化が少ないと、20分ぐらいで刺激に対する注意の集中度が低下し、反応量や正答率が下がるため、『20分効果』と呼ばれています。クラシック音楽でも、15分から20分ごとに楽章が分かれていて、小休止が入る構成で作られているものが多いです。深い集中が持続できる時間は『15分』程度であって、20分を超えない。つまり『15分』が1単位と考えることができます。」(樺沢医師)
「『15分』は、集中力持続の単位だったのです。『007』はこの15分を効果的に使っていたと考えることができます。」(同)
――本書は医学的な見地から、時間に関するエピソードがわかりやすく説明されている。新入社員や、新任管理職など、新たな環境変化のあった方におすすめしたい。
参考書籍
『脳のパフォーマンスを最大まで引き出す 神・時間術』(大和書房)
尾藤克之
コラムニスト