米下院で通過した”トランプケア”、オバマケアとどう違う?

米下院は5月4日、僅差ながら賛成217、反対213で医療保険制度改革(オバマケア)の撤廃並びに代替案である米国医療保険法(American Health Care Act、略してAHCA)を可決しました。3月24日の採決見送りを経て上院へつなげた格好です。

しかしながら、上院で60議席を確保しなければ日の目を見ることは叶いません。共和党の議席数が52ですから、民主党から8人の支持を獲得しなければならず、茨の道が続きます。

そうはいっても、オバマケアと代替案がどう変わったのか気になりますよね?代替案を仮にトランプケアとして、注目点をざっくり拾っていきましょう。なお、2017年分のオバマケアは変わらず適用されます。

1.加入義務
・オバマケア→あり
・トランプケア→なし、ただし継続的加入が必要で医療費滞納が生じた月の支払い額は3割増しに

2.最低限の健康補助
・オバマケア→①外来患者サービス、②救急車使用など緊急サービス、③入院、④妊娠、乳児ケア、⑤心療内科サービス、⑥処方箋薬、⑦リハビリ、⑧研究所での試験など、⑨慢性病管理や予防サービス、⑩口腔・眼科含む小児科サービス
・トランプケア→州政府が上記10項目についてカバーするか決定

外来患者サービスや入院などが、最低限の健康補助に含まれていなかったというのは驚愕。


(出所:kristin klein/Flickr)

3.既存の条件
・オバマケア→医療保険会社は、既往症を持つ加入者でも保険料引き上げず受け入れる義務あり
・トランプケア→医療保険会社が既往症によって医療保険の引き上げできるか、州政府に裁量

4.医療保険の補助
・オバマケア→貧困ライン年収の4倍まで補助を支給、加入者全体の85%に相当
・トランプケア→税額控除を適用、所得ごとより年齢で決定

5.低所得者層向け医療保険(メディケイド)の費用負担
・オバマケア→州政府が1ドル支払うごとに連邦政府が最低1ドル負担
・トランプケア→メディケイド拡充(メディケイド拡充とは適用資格を貧困ラインの133%、独身で$14,856ドル、4人世帯で$30,675へ引き上げ、扶養家族がいない成人も加入が可能)を2020年までに段階的に廃止

6.処方箋薬
・オバマケア→海外からの医薬品輸入について超党派で議論も、現状で道開けず
・トランプケア→海外での処方箋薬の購入を検討、米国内での医薬品コスト引き下げを促進する可能性

7.医療貯蓄口座(HSA)
・オバマケア→利用の選択肢あり、ただし税控除額が個人当たり1,300ドル以上など高額な医療保険プランである必要
・トランプケア→税金面で有利、トランプ政権下で拡大へ

8.税控除
・オバマケア→医療費負担が調整済み世帯総収入に対し10%を超える場合に対象
・トランプケア→医療保険費用を全額税控除できる可能性あり

——以上の観点から、リベラル系メディアのVoxが今回の変更点を受け勝者と敗者を伝えています。

勝者:健康で、若い世代の高所得者層
→医療保険を購入する上での税控除の対象額はオバマケアの場合で1人当たりの年収が6.4万ドル以下だったところ、トランプケアでは10万ドルへ引き上げ。高齢者の医療保険費用を現行の3倍から若年層の5倍へ変更、24歳の医療保険負担は年間平均2,800ドルから2,100ドルへ削減。既往症のない医療保険加入者の医療保険料は縮小へ。

敗者:健康に問題を抱え、高齢の低所得者層
→メディケイド拡充の撤廃により、医療保険費用の負担拡大。税控除を所得ベースのみで決定しないため、40歳で年収2.65万ドルの税控除額は年間平均4,800ドルから3,650ドルへ、64歳ならば1万3,600ドルから4,900ドルへ縮小

——以上、低所得者と高齢層に厳しい内容でメディケイド拡充も撤廃されます。最低限の健康補助も州政府次第とあって、民主党支持者でなくともオバマケアで恩恵を受けた人々の家計を直撃する内容。半面、高所得者層には比較的手厚い。米上院での採決は難航が予想され、かつジョージア州の下院補選の決戦投票にも大いに影響を与えることでしょう。フリーダム・コーカスが承認しただけあって歳出は減少する見通しですが、6月20日に予定する選挙結果に注目です。

(カバー写真:Fibonacci Blue/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2017年5月7日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。