トヨタが逆立ちしてもアップルに勝てない理由

荘司 雅彦

トヨタ自動車の2期連続の減益が話題になっています。他方、アップルの時価総額が米国企業で初めて8000億ドルを越えたという、対照的とも言えるニュースが注目を集めています。

2017年4月時点での時価総額ランキングでは、日本企業トップのトヨタ自動車は44位で1642億ドルしかありません。首位のアップルの約5分の1です。

さらにショッキングな事実は、従業員1人当りの時価総額です。正確な数字はわかりませんが、アップルの従業員1人当り時価総額はトヨタ自動車の従業員1人あたり時価総額の30倍とも50倍とも言われています。桁違いであるということだけは確かです。

このような大きな差が生じる原因は、以前から野口悠紀雄先生が主張しているように、アップルの「水平分業モデル」とトヨタ自動車の「垂直統合モデル」という組織形態の違いにあります。

トヨタ自動車だけでなく、日本の製造業の多くは(下請けから購入する部品を除けば)すべて自社内で完結させてしまう垂直統合という組織形態になっています。それに対し、アップルは全世界から部品を集めて自社は最終段階だけを取りまとめるという、国際的水平分業というシステムを利用しています。

国際的水平分業システムは、IT技術の進歩と普及によって可能になったもので比較的新しいビジネスモデルです。日本国内にもアップルに製品を供給している会社多数があり、新潟県燕市の「磨き屋シンジケート」がアップルのiPodの研磨を請け負っていたという話は有名です。

このように、アップルが採用する国際的水平分業モデルは、世界中の優れた技術力を柔軟かつ安価に入手することができるので、自社内完結型の垂直統合モデルでは逆立ちしても勝ち目はありません。国際的水平分業モデルは、アダム・スミスが説いた「各自が得意な分野に特化して分業すれば生産性が飛躍的に向上する」という理論を、世界規模で実践しているのですから。

なぜ、トヨタ自動車をはじめとする日本の製造業がアップルのような水平分業モデルを採用しないのでしょうか?
「しない」というより「できない」のです。その最大の原因は、労働者を保護し過ぎている日本の労働法と裁判所の判例です。指名解雇は言うに及ばず整理解雇にも厳しい要件が課され、基本給の減給すらほとんど不可能な状況に日本企業は置かれているのです。

水平分業システムを採用しようとすれば、それまでの工場労働者を解雇しなければならなくなります。工場ごとに分社化して独立採算制にしようとしても、労働者を転籍させて基本給を下げることは困難なので、分社化の意味がありません。
現在の日本の解雇規制が、労働者にとっても悪影響を与えていることは以前にも書きました。

解雇規制は、実は従業員を苦しめている!

ブロックチェーンが普及すると、世界的水平分業システムは飛躍的に進むでしょう。
正直なシステムであるブロックチェーンによって世界中の人々の信用力等を把握することができるので、地球の裏側にいる一面識もない相手に仕事を依頼することも可能になります。ITが切り開いた水平分業モデルが、ブロックチェーンによって飛躍的に効率化し拡大していくのです。

垂直統合に固執せざるを得ない日本の製造業が衰退してしまう前に、一刻も早く解雇規制の緩和、労働条件の柔軟な変更等、過保護な法制度を変更する必要があると考えます。企業が潰れれば、労働者も路頭に迷ってしまうのですから。

荘司 雅彦
幻冬舎
2016-05-28

編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年5月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。