知財本部・新情報財委員会 座長コメント

新たな情報財検討委員会の報告書のとりまとめに際して、共同委員長の東大・渡部俊也教授とぼくの連名でコメントを発しました。全文コピーします。


IoTや人工知能の進展に伴う「データ駆動型イノベーション」においては、様々なデータや学習済みモデル、またこれらによってもたらされるコンテンツが、業界や国境を越え、サイバーとフィジカルに跨り、幅広く円滑に利活用される仕組みが不可欠である。

現在官民挙げて第4次産業革命に向けた投資が検討されているが、これらデータ等の利活用を導く役割を担う「知財システム」が十分機能しないと、データ利活用が進まず、これらの投資が無駄になる恐れもある。

本委員会では、このような背景から、第4次産業革命に向けた未来への投資を、我が国の産業競争力の強化へ着実につなげていくことを目指し、新たな情報財に関して、「知財システム」面での課題について幅広い検討を行ったものである。

もとよりこれらの新たな情報財は、それ自身知的財産権制度の対象であるかどうか不安定で、整理された形での保護の対象ではないところ、現行制度の特許、著作権、営業秘密、さらに契約を利用した利活用促進について、産業財産権およびコンテンツの両分野の有識者に参加いただき議論を行ってきた。

知的財産戦略本部の議論は従来から両分野の有識者をメンバーとした検討を行ってきたが、過去の論点は、2つの異なる分野ごとに比較的明瞭に分かれていたことに比べて、今回の検討は、まさしくこの両分野にまたがる総合的検討が必要であり、幅広い視野が必要とする複雑な議論を必要とするものであった。

その意味で本検討委員会は、我が国の知財戦略において、はじめての本格的な分野横断プロジェクトとして、意義ある挑戦であったといえるのではないだろうか。

それはIoTや人工知能の進展が、従来の知的財産制度の垣根を揺るがすようなインパクトを与えていることを如実に示すものであったということもできる。

この検討委員会の経験は、今後の我が国の「知財システム」についての抜本的在り方の議論や、政府における検討組織、さらには民間における知財部門の体制や組織、そして人材育成の在り方にも大きな影響を与えていくことになるだろう。

今回の報告書は、その大きな環境変化の過中において、新たな情報財についての先進的な検討を行った結果をとりまとめたものと位置づけられる。

今回の検討内容は、現時点で国際的にも先進的なものであると言える。国際競争力強化の観点から、報告書において最終的に検討を進めるべきとされる事項については、知的財産推進計画2017に盛り込まれ、各省庁により早急な取り組みが行われることを期待したい。

一方判例法の制度下においては、より先進的で法的リスクの高い試みが行われやすいという点も加味して考えれば、引き続き検討すべきとされた事項についても、今後さらなる状況の進展に合わせて不断の検討を進めていくことが求められるだろう。

第四次産業革命を乗り切るのに十分な「知財システム」を、早急に確立していくことが求められる中で、今後も不断の検討を続ける必要があるとはいえ、その第一歩を示すことができたとすれば、それは大いに意義あることと考える。

今回の議論に積極的に参加された構成員の皆様に心から感謝いたします。

共同委員長 渡部俊也、中村伊知哉


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2017年5月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。