トランプ・スキャンダルはウォーターゲート事件に匹敵する(特別寄稿)

渡瀬 裕哉

(編集部より)FBI長官解任で、世界に衝撃を与えたトランプ大統領。この事態をどう評価し、どう今後を展望するべきか、特別原稿は、トランプ当選をいち早く予測した渡瀬裕哉さんの待望の分析です。

米ロ関係を揶揄する風刺画(DonkeyHotey/flickrより:編集部)

何故トランプはホワイトハウスで孤立しているのか

トランプに最も対立する共和党上院議員であるジョン・マケイン議員が「Trump scandals have reached “Watergate size and scale. (トランプ・スキャンダルはウォーターゲート事件に匹敵する。)」と発言しました。

トランプがコミーFBI長官を首にしたことで、米国の政治情勢が一気にヒートアップした状況となっています。しかし、現在米国で起きていることを理解するためには、トランプ政権発足以来、政権内の権力バランスがどのように変化してきたのかを分析する必要があります。

トランプはコミーFBI長官の辞任を決定した時、主にクシュナー大統領上級顧問やイヴァンカなどの一部近親者と友人を重視し、少し前までは腹心扱いであったバノン首席戦略官ですらテレビでその情報を知ったと報道されています。今回の決定にはペンス副大統領も一応支持したとされていますが、実際にはホワイトハウスにはトランプ大統領を守る存在は自らの家族のみという孤立した状況になりつつあります。

トランプ大統領就任以来、トランプ側近と呼べる保守派の中でも少し浮いた立場の人々がロシア問題や議会対策の不手際によって大統領の信頼を失っています。具体的には辞職に追い込まれたケース(フリン前首席戦略官)、遠ざけられたケース(バノン首席戦略官、プリーバス首席補佐官)、距離を取らざるを得なくなったケース(セッションズ司法長官)などです。その過程でトランプと対立してきた主流派・ウォール街・ネオコンなどの勢力はそれらの政敵を片付けつつ、娘婿のクシュナー大統領上級顧問に接近することに成功しました。

トランプ大統領は自らに反目する勢力に取り込まれた家族側の意見を尊重した結果として、自らを支えてきた選挙時の側近の多くを遠ざける愚を犯してきました。つまり、トランプとその一族はワシントン政治の「沼」である主流派・ウォール街・ネオコン勢力、そして彼らの意向を受けたメディアの「離間の計」にまんまとハマったことになります。

トランプ大統領を積極的に守る動機を持つ人々は上記の結果としてクシュナーら家族しか残されていない状況となっています。元々弱かった政治基盤がもはや完全に崩壊した状態です。

「そして、誰もいなくなるのか?」、取り沙汰されるクシュナーとロシアの関係

現在、トランプ政権を揺るがしている直接の原因はロシア問題です。連日の政権内からのリーク及び報道のコンビネーションによって一気に弾劾に向けたボルテージが上がりつつあります。

しかし、重要なことはこの弾劾手続きの中で証言を求められる対象の中に「クシュナー大統領上級顧問」が含まれる可能性があるということです。実際、同氏は昨年フリンと一緒にロシア大使に会ったという報道後常にロシアとの様々な関係を指摘され続けています。

日本においても世襲指名する場合を除いて肉親を政治的に枢要なポストに就けることは悪手として考えられています。なぜなら、政治家の側近として動いている肉親への批判はそのまま政治家本人への批判につながります。そのため、トランプ本人に過失がなくともクシュナーに弾劾手続きの過程で何らかの問題が生じた場合ダメージは避けられません。

つまり、トランプ大統領に対峙する勢力の意図として、フリン、バノン、セッションズらのトランプ側近を排除するだけではなく、トランプ一族をまとめてホワイトハウスから追い出す狙いが見え透いており、クシュナー大統領上級顧問らトランプ周辺はうまいこと乗せられたのではないかと思います。

4月に行われた補欠選挙とトランプを押し上げた共和党保守派の微妙な立場

先月4月に行われたマイク・ポンぺオCIA長官の地元カンザス州の補欠選挙では、本来共和党が楽勝州のはずが民主党にかなり僅差まで詰められるという状況になりました。補欠選挙という特殊な状況を考慮したとしてもトランプ大統領で選挙を戦えるのか不安な数字となっています。

共和党連邦議員達は2018年の中間選挙を控えており、トランプ大統領側にこれ以上決定的な過失が見つかった場合、現在の体制では選挙を戦えないと判断する可能性があります。そのため、近々に予定されている他の補欠選挙の数字も見据えながらの政局模様となっていくでしょう。改選を控えたボブ・コッカ―上院議員(主流派)がFBI長官の解任に疑問の声をあげているのも選挙情勢を踏まえてのことだと推測されます。

そして、元々トランプ大統領に敵対してきた民主党や共和党主流派・ウォール街・ネオコン勢力だけでなく、トランプ大統領を支えてきた共和党のレーガン保守派(非オルトライト系)の人々も置かれた立場が微妙な状況となっています。

仮にトランプ大統領が弾劾・罷免された場合、次に大統領に就任する人物は「保守派色が歴代最も強い副大統領」であるマイク・ペンス氏ということになります。 

元々トランプ大統領は今年2月に開催された保守派大会であるCPACで「バーニー・サンダースを褒める」「リベラルな政策を擁護する」趣旨の発言を行うなど、保守派としては100点満点からは遠い妥協から生み出された大統領に過ぎません。したがって、レーガン保守派としてはトランプを支える動機・支えない動機の両面があるため、あからさまにトランプ大統領批判を行いにくい状況ですが、ただし彼らにとっても大統領職の替えがきかない状況ではありません。

そのため、レーガン保守派としては、冒頭のマケイン上院議員ら反トランプの主流派に好き勝手発言させつつ、自分たちはトランプ大統領から距離を取って様子を見守るという判断を下してもおかしくありません。彼らの宿願であったゴーサッチ最高裁判事の指名は既に終ったこともあり、残るは大統領の地位に保守派大統領を据えるのみと解釈することもできます。

トランプ大統領の弾劾及び罷免は十分に可能性がある状況となった

トランプ大統領を弾劾・罷免するためには、連邦下院の過半数で訴追を決定し、上院出席議員の3分の2が罷免に賛成する必要があります。そのため、上下両院で共和党が多数を占める現状において、一見して弾劾・罷免は難しいように映ります。

しかし、実際には、トランプ大統領に敵対する主流派は共和党議員の約半数存在しており、保守派の中にもトランプ大統領と政治的に敵対するリバタリアン系(オバマケア代替法案の際に離反したフリーダムコーカスなど)の議員が存在しています。つまり、連邦下院において単純過半数で訴追を可決した後、上院では裁判を行った上で、共和党議員の一部が欠席した場合に出席した民主党議員の投票で罷免を可決することが可能です。

トランプ大統領は、ホワイトハウス内の自らの最側近を切り捨てつつ、大統領選挙勝利の原動力となったレーガン保守派を蔑ろにし、クシュナー大統領上級顧問に乘かった政治的敵対勢力の伸長を許したことで、自らを守る盾をほとんど失った形となっています。トランプ大統領は最近になって保守派が喜びそうな大統領令などを再び提出していますが、既に彼を取り巻く包囲網は相当に狭まった状況です。

いまやトランプ大統領を積極的に守る人々はすっかり少なくなったと言えるでしょう。現在リークされているトランプ側・反トランプ側の情報がどこまで真実かは分かりませんし、依然として断言することはできませんが、トランプ大統領の弾劾・罷免のリアリティーが増しつつあることは確かです。

本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。

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