昨今、振り込め詐欺の被害経験者が「被害金を取り戻せる」という甘言に騙されるという二次被害が増えています。詐欺被害者のリストが闇で売買されているのでしょう。
では、一度詐欺被害にあって十分痛い思いをした人が、どうして再度騙されてしまうのでしょうか?彼ら、彼女らには、学習能力が欠如しているのでしょうか?
決してそのようなことはありません。以前ご説明した心理学的作用が働いた結果であると私は考えています。
認知不協和を起こした人は、それを解消するために自分の決断を正当化する情報を無意識に集めるという心理作用です。
詐欺被害にあった人の多くは、家族などから「どうして騙されたの?」「今度からしっかりしてね!」などと釘を刺されてプライドが傷ついています。自分自身が情けなくなってしまってい、認知不協和を起こすことが多いはずです。
そういう時、「あなたが騙されたのは決してあなたが馬鹿だったからじゃない」「心の優しい人であれば、誰もが同じ行動をとっただろう」などと、被害者の決断を正当化してくれる人がいれば、その人の話を信じたくなりますよね。
周りの10人が自分のことを馬鹿にするけど、1人だけは自分の行動を正しく評価してくれると考えて。
このように、第二の犯罪は「騙された人が陥っている認知不協和」に付け込むことから開始されます。
耳障りのいい情報をたくさん与えて信頼を勝ち取ったところで「実は取り返す方法があるにはあるのですよ」と持ちかけられれば、10人に2人くらいは依頼してしまうのではないでしょうか?
また、第二の被害に遭う人の多くは仕事をリタイアした高齢者が多いのではないかと私は想像しています。
人間というものは、「暇な時ほど」あれこれ不安に苛まれたり過去の怒りがぶり返して不快感を味わったりするものです。
人が将来不安を感じたり瑣末なことで悩んだりするのは、たいていは家でゆっくりしている休日です。 そういう意味では、今流行りの「老後破産」だとか「国家衰退」というネガティブな煽り広告は、日曜の朝刊で出すのが最も効果的かもしれません。
なぜ休日に人が悩んでしまうのかという理由は、逆を考えれば容易に理解できます。人間は忙しくしていると悩み続けることができなくなるのです。戦争で心の傷を負った兵士に対して医師たちは「多忙にすること」という指示を与えたそうです。
実際、第二次大戦時の米軍では、心の傷を負った兵士たちに野球やゴルフで忙しくさせる「作業療法」というのが用いられたそうです。ゲームの勝敗に熱中するなど、(憂鬱が忍び込んでこないように)心を多忙にしておくことがポイントです。
リタイアして仕事もなく暇にしていると、騙された悔しさを心の中で何度も何度も反芻しては怒りと屈辱がこみ上げ、自己肯定感を与えてくれる甘い言葉に乗ってしまうのでしょう。
第二の詐欺師は当然それを知っているので、「忙しくない」被害経験者をターゲットにしているのでしょう。何度も反芻して蓄積された怒りや屈辱を上手に受け止めてあげるのでしょうね。
余談ながら、週末や連休前に他人に重い課題や不快な情報を与えるのは極力避けた方がいいでしょう。
あなたも、一度や二度は経験したことがあるでしょう?
週末や連休前に「ゆっくり休むぞ!」という気分に浸っている時、気が重くなるような課題を与えられて不愉快な休日を過ごしたことが。特に、やることもなく家でゴロゴロしていると課題のことばかりが気になって、「早く明日になって仕事が始まらないかな〜」と思ったこともあるのではないでしょうか?
もっとも、大嫌いな上司にとても不愉快な週末を過ごさせるために、転職するに際し、わざと退職届を金曜日に提出するという高等技術を駆使する人もいるようですが(笑)
編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年5月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。