米国での弾劾プロセス、早分かり

トランプ米大統領が電撃的に米連邦捜査局(FBI)前長官を解任してから1週間が過ぎ、ようやく米株相場に変化が訪れつつあります。17日のNY株市場で、ダウは一時250ドル以上も急落。為替市場でも足元で114円台を回復したのも束の間、17日に一時111円半ばまでドル安・円高が進む展開を迎えました。ブックメーカーのプレディクトイットでは16日、トランプ米大統領が年内に弾劾されるオッズが19%から29%へ上昇する始末です。

3月以降で最高値を更新できていなかったダウ、50日移動平均線を抜けて大幅安に。


(出所:Stockcharts

弾劾へのオッズが高まるように、合衆国憲法第2条第4節で「大統領並びに副大統領、文官は国家反逆罪をはじめ収賄、重犯罪や軽罪により弾劾訴追され有罪判決が下れば、解任される」と明記されています。そこで、米国の弾劾プロセスをざっくり振り返ってみましょう。一言で申し上げると弾劾訴追権は下院が、弾劾裁判権は上院が有します。

【下院】

議席数435:共和党238、民主党193

①下院議員あるいは特別検査官の助言などで下院が弾劾を発議

②司法委員会、議事運営委員会が訴因調査を決議

③司法委員会が調査、過半数の支持で弾劾勧告

④下院全体で協議後、過半数(218議席)の支持獲得で上院へ

【上院】
議席数100:共和党52、民主党48

①上院で審理開始、最高裁長官が裁判長を務め上院議員は陪審員、下院調査担当者が検事役、ホワイトハウス法律顧問が弁護士役

②公聴会を開催後、上院全体で審議

③上院の3分2(67議席)による支持で大統領は罷免、回避しても刑事責任を問われる余地残す

民主党議員が全員弾劾支持に回るとして必要な共和党の議席数は④では97議席上院の③では共和党から19議席を確保しなければなりません。

過去に大統領が弾劾訴追されたケースは2回ありますが、罷免は回避しています。1868年にはリンカーン前大統領の暗殺を受け就任したA・ジョンソン氏がリンカーン氏の政策に反し南部人に寛大な政策を実施した問題に加え当時の法律に反し政府高官を罷免したため、弾劾訴追を受けました。1998~99年には、モニカ・ルインスキー氏との不貞行為が仇となりクリントン氏が対象になりましたよね。ニクソン氏は1973年10月の”土曜夜の殺戮”後、1974年7月に下院司法委員会が発議を可決した結果、辞任に至ったため弾劾訴追の例には含まれません。

クリントン氏は弾劾訴追で免職を回避したとはいえ、弾劾に無用な時間を奪われました。1998年9月に下院が弾劾を決議してから、中間選挙を経て上院が弾劾を見送るまで約5ヵ月を要しています。スター特別検査官がダンボール18箱分の事前調査を行っていなかったら、もっと時間が掛かっていたに違いありません、辞任で幕引きしたニクソン氏の場合は、ウォーターゲート事件が発覚した1972年6月から下院司法委員会の弾劾訴因を承認した1974年7月まで、約2年も要しました。

ウォールストリートは税制改革をはじめインフラ投資、規制緩和への期待からトランプ政権下で米株ロングを積み上げたものの、クモの子を散らすようにポジションを手仕舞いしつつあります。ゼネラル・エレクトリックの元会長でトランプ米大統領と懇意のジャック・ウェルチ氏まで、弾劾で米株下落リスクが高まると警告する始末ですからね。ただペンス副大統領が昇格し税制改革をはじめ経済政策が想定通り進むと判断されれば、怒濤のような買い戻しを招く可能性を残します。

(カバー写真:Alvin Feng/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2017年5月17日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。