【映画評】夜に生きる

禁酒法時代のボストン。警察幹部の父親から厳格に育てられたジョーは、父への反発から、仲間と強盗を繰り返していた。ギャングの世界ではアイルランド系とイタリア系の2大勢力が対立していたが、支配を嫌うジョーはそのどちらにも入る気はなかった。ある日、ジョーは強盗に入った賭場で、アイルランド系ギャングのボス、ホワイトの愛人エマと出会い、恋仲になったため、命を狙われる。夢と野望を手に入れるためには、ギャングとして、のし上がる道しかない。こうしてジョーの運命は激変するが…。

裏社会でのし上がった男がたどる愛と復讐を描くクライム・ドラマ「夜に生きる」。原作は、本作で監督と主演を務めたベン・アフレックの監督第1作である「ゴーン・ベイビー・ゴーン」と同じ原作者の、デニス・ルヘインの犯罪小説だ。物語の背景は、ローリング・トゥエンティ(狂騒の20年代)と呼ばれた華やかな時代から、その後は30年代の暗い大恐慌時代へ。目まぐるしいほどの社会の激変は、主人公ジョーが属する犯罪の世界でも同じだ。ジョーの恋の顛末とギャングとしての栄光と転落…という展開なら、ありがちな犯罪映画だが、物語には、多種多様な要素が登場し、広がりをみせていく。フロリダ州タンバでの仕事を足掛かりにしたジョーは、酒の密売から不動産業、カジノ建設へと手を広げるが、その過程で、KKK(白人至上主義)が暗躍したり、ハリウッドの闇ともいえるポルノ産業がチラついたり、その犠牲者である美少女ロレッタの狂信的な宗教活動など、次から次へとトラブルが起こる。一方、ラム酒に必要な糖蜜を一手に仕切る、キューバ移民の美女グラシエラとの恋から新しい人生の予感もある。これらが面白い一方で、詰め込みすぎで少し煩雑にも感じてしまった。だが、それを補うのが、適材適所に配された実力派俳優だ。クリス・クーパー、エル・ファニング、ゾーイ・サルダナらが、先読みできない時代を生きる個性的な人物たちを好演している。終盤の、ギャング抗争の最終段階では、裏切りや策略で、手に汗にぎる展開に。そして思いがけないラストに、運命の皮肉を見る。純愛と犯罪の清濁両方を引きずりながら運命と対峙する主人公は、まさに夜の闇に生きるダーク・ヒーローなのだ。ベン・アフレックはポスト・イーストウッドと評される才能の持ち主だが、黒を適格に使用する画面作りや、善悪の境界線が曖昧なストーリー、自分なりの正義と男の生き様を描くスタイルは、なるほど多くの共通点がある。渋い犯罪映画に仕上がった。
【70点】
(原題「LIVE BY NIGHT」)
(アメリカ/ベン・アフレック監督/ベン・アフレック、エル・ファニング、ブレンダン・グリーソン、他)
(ダークヒーロー度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年5月20日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式Facebookページから)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。