【映画評】光をくれた人

1918年、トムは戦争の英雄として帰還するものの、心に深い傷を負っていた。彼は俗世から逃げるように、オーストラリアの絶海に浮かぶ孤島ヤヌス島の灯台守の仕事に就く。3ヶ月間一人で暮らした後、正式採用になったトムは契約のために町に戻るが、その時に出会った土地の名士の娘イザベルと恋に落ちて、結婚することに。孤島で二人きりで暮らす夫婦は幸福な時を過ごすが、イザベルが流産を繰り返し、深い悲しみに見舞われる。そんな時、島に一隻のボートが流れ着いた。中には生まれたばかりの赤ん坊と男性の遺体。赤ん坊と一晩を過ごしたイザベルは、その子を自分たちの子として育てたいと懇願する。トムはそれがいけないことだと分かっていながら、イザベルの希望を承諾してしまう。ルーシーと名付けた赤ん坊はすくすくと成長するが、4年後に生みの母ハナと偶然出会うことになる…。

漂着した赤ん坊を育てる灯台守の夫婦の愛と葛藤を描くヒューマン・ドラマ「光をくれた人」。原作は、M・L・ステッドマンによる世界的ベストセラー「海を照らす光」だ。戦争で深く傷ついたトムと同じく戦争で兄を亡くしたイザベルは、共に善良な人間で、愛する者を失うつらさを経験している。孤島で二人きりの幸福な時間から一転、流産という大きな悲劇が、二人の判断を狂わせたのだろう。男性の遺体と赤ん坊の漂着を本土に報告しなければいけないことは理性では分かっていても、本能で抗えない。だが真実と罪への恐れが、やがて彼らを悲劇的な運命へと導いていく。

生みの親と育ての親というテーマは、過去にも何度も映画で描かれたが、本作では、トムとイザベル夫妻が、海と人を安全に導く灯台を守る仕事をしていることが象徴的だ。命を守るべき人間が犯す罪に、私たち観客は夫婦同様、引き裂かれる思いを味わう。なぜなら、彼らは悪人ではなく、悲しいほど愛を求めていることを知っているからだ。本当の母親ハナの深い嘆きと、彼女がたどってきた運命はサブストーリー的に語られるが、これもまた切ない。トム、イザベル、そしてハナは、それぞれに大きな決断を下すことになる。ボートの遺体はハナの夫で赤ん坊の父親なのだが、彼が生前、命がけで教えてくれたのは“赦し”だった。このことが、ラストに灯台の光のような希望を与えてくれる。

善悪の境界線があいまいな登場人物たちは、演じるのが非常に難しいキャラクターだ。ファスベンダー、ヴィキャンデル、ワイズといった、国際的に活躍する演技派が揃ったことで、母性、夫婦、家族、贖罪を描く物語が奥深いものになっている。人は時に間違った選択をしてしまう。だが、どんなに暗い海の中にいても、きっと光を見出すことができる。愛と人間を肯定する静かな良作だ。
【70点】
(原題「THE LIGHT BETWEEN OCEANS」)
(米・豪・ニュージーランド/デレク・シアンフランス監督/マイケル・ファスベンダー、アリシア・ヴィキャンデル、レイチェル・ワイズ、他)
(切なさ度:★★★★★)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年5月26日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式Facebookから)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。