小池知事が「子どもを受動喫煙から守る条例」を公約に入れた意義

駒崎 弘樹

「#たばこ煙害死をなくそう」ムーブメント呼びかけ人の一人、駒崎です。

屋内禁煙を実現しようとする厚労省を、茂木議員・野田毅議員を中心とする自民党たばこ議連が阻んでいる、という構図が続いています。

世論の高まりを受けて、官邸も事態収拾に向けて、指示を出し始めています。

そんな中、小池知事から驚きの発表がされました。

子ども目線のたばこ対策

小池都知事は以前から、厚労省案に近い、屋内禁煙条例を作っていくことを発言していました。もし自民党たばこ議連が厚労省案を潰したとしても、都議会議員選挙で都民ファーストが勝利すれば、東京においては屋内禁煙が実現することになります。

それに加えて、今回発表されたのが、「子どもを受動喫煙から守る条例」です。

これは非常に画期的なことで、「家庭内や公園や通学路、子どもが同乗する自動車の中などで喫煙を制限」という点で、今回厚労省が提案した屋内禁煙案を更に進めるものとなっています。

なぜ、こどものためのたばこ対策が必要か

受動喫煙は子どもの突然死の確率を4.7倍にも高めます。(日本循環器学会

更には喘息による入院率も1.43倍~1.72倍に引き上げます。

また、意外かもしれませんが、知能にも負の影響を与えます。特に読解能力に大きく悪い影響があります。

( 出典:Yolton K, et al: Exposure to environmental tobacco smoke and cognitive abilities among U.S.children and adolescents. Environmental Health Perspect. 2005

つまり、実際に心身に大きなダメージを与えることにより、受動喫煙を強いることは、児童虐待とみなすべきことなのです。

大人であれば、受動喫煙を強いられている状況に、「すいません、やめて下さい」と伝えられるでしょう。

しかし、子どもは生まれる家庭を選べず、また親に対しても受動喫煙を望まないことを伝えられません。

これが、子どものための受動喫煙対策が必要な理由です。

諸外国の子どものための受動喫煙対策

イギリスでは、子どもが車内にいる場合にたばこを吸うことは犯罪です。

(出典:子供が乗っているときは車内禁煙、イギリスで法案可決「大人は自由に吸えるが、子供は声をあげられない」

オーストラリアでは車内も規制されていますが、多くの州で子どもの遊具がある公園等から10メートル以内も禁煙になっています。

アメリカでも多くの州や地域で、子どもに関する施設内やアクセス可能な公園等において規制を行なっています。

(出典:https://en.wikipedia.org/wiki/List_of_smoking_bans_in_the_United_States

このように、世界各国で子どもの前での喫煙を暴力であるとみなし、法規制を行なっているのです。

実際に、スコットランドでは、法規制によって小児喘息入院数が減った等、良い影響が見られました。

私的権利を侵害している?

このような子どものための受動喫煙対策ですが、ネット上には以下のような反応があります。

果たして本当にそうでしょうか。

僕はこう考えます。

突然死の確率が5倍になる等、子どもの前での喫煙は暴力的で、児童虐待と同じだということは述べました。

児童虐待が家の中で行われた場合、「家の中は私的な空間で、私的な空間に政府が口を出すべきではない」ということにはなりません。

なぜなら、子どもは親の私的な持ち物ではなく、一個の人格であり、生きる権利、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を持つからです。

よって、車内や家庭において、子どもの前での喫煙(暴力)を一定制限されたとしても、そこに正統性はあると言えるでしょう。

子ども達のために

今回の東京都の発表は、先進国で最も遅れていると言って良い日本の受動喫煙対策を、10年ほど前に進めるものです。諸外国では当然の規制ですが、公共の場(飲食店等)に限った厚労省案でさえ潰されようとしている日本においては、異例と言って良いでしょう。

おそらく愛煙家や、子どもの前での喫煙を児童虐待だと認識していない人たちからの、多くの批判が集まると思います。

しかし、選挙戦を有利に進める戦術、という側面はあったとしても、子ども達のためにリーダーシップを発揮しようとしている知事の姿勢に、まず拍手を送りたいと思います。

そして我々都民は、子ども達に対して受動喫煙という暴力をふるい続けたいか、ということを議論していかなくてはならないでしょう。


編集部より:この記事は、認定NPO法人フローレンス代表理事、駒崎弘樹氏のブログ  2017年5月27日の投稿を転載させていただきました。転載を快諾いただいた駒崎氏に感謝いたします。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。