サイバー攻撃はプーチン氏の復讐?

長谷川 良

独週刊誌シュピーゲル(5月20日号)はサイバー攻撃を特集し、ロシアの治安機関エキスパートのジャーナリスト、アンドレイ・ソルダトフ氏(Andrej Soldatow)にインタビューしている。非常に興味深い内容だ。そこで以下、インタビューの概要を紹介する。インタビューの見出しは「プーチン氏の動機は復讐だ」(Putins Motiv ist Rache)。

▲ロシアの治安機関エキスパート、ソルダトフ氏(独週刊誌シュピーゲル誌から)

ソルダトフ氏(41)は、昨年11月の米大統領選と今年4月と5月の仏大統領選でロシアのサイバー攻撃があったという情報を追認し、「ロシアは次に独連邦議会選(9月24日実施)にサイバー攻撃をかけてくるだろう」と予測している。

同氏は「米大統領選後、しばらく休みがあったが、仏大統領選決選投票直前のマクロン・リーク(内部文書流出)などをみると、クレムリンはサイバー攻撃を今後も継続すると決定したはずだ。次のターゲットはドイツの総選挙だろう。クレムリンにとってドイツは欧州連合(EU)の中核だ。ロシアはEUを弱体化したいという思いに憑りつかれている。欧州を弱め、誤導し、危うくしたいのだ」という。

メルケル独首相は9月の総選挙でロシアのサイバー攻撃を警戒し、プーチン大統領に既に警告を発しているが、米大統領選、仏大統領選時のサーバー攻撃でロシア側には何もマイナスは生じていない。次はドイツにサイバー攻撃をかけようとしているというのだ。ドイツの既成政党はソーシャル・ネットワークの威力を過小評価している。ロシアは、ドイツの選挙が大きな影響を行使できるチャンスと考えているわけだ。

IT専門家や西側情報機関は米大統領選、仏大統領選のサイバー攻撃はファンシー・ベアーズ(Fancy Bears)と呼ぶハッカー集団でロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)の管理下にある。ソルダトフ氏によると、コンピュータやデジタル記録媒体の中に残された法的証拠(Digital forensics)から、どの国から攻撃が行われたかを判断できるという。

「サイバー攻撃がロシアから、それも国家が支援する機関からだという点で専門家は一致しているが、国家的機関のどこかを断定することはできない。それは余り重要ではない。ハッカー (hacker) が制服を着ているか、私服かは問題ではないからだ」。
ソルダトフ氏はその著書で、「ハッカーの指令系統は最終的にはロシアのプーチン大統領に行きつく」と記述している。

それではプーチン大統領の米大統領選でのハッカーやその関連文書のリークの動機はなにか。
ソルダトフ氏は、「米大統領選のハッカーやリークは長期的、戦略的に準備された結果ではなく、短期的に決められた反応で、計画的な戦略ではなかったはずだ。直接の契機は、租税回避行為に関する 一連の機密情報(Panama Papersパナマ文書)の公開だ。そこではプーチン大統領の友人で大富豪セルゲイ・ロルドゥギン氏(Sergej Roldugin)の名前も暴露されていた。プーチン氏はパナマ文書公開の背後に米国が関わっていると判断した。そこで報復を決めたわけだ」と説明する。サイバー攻撃は今日、ロシア連邦保安庁(FSB)の主管下に置かれている。FSBはロシア国内のIT産業を支援している。

興味深い点は、サイバー攻撃に対するクレムリンの指導者の受け取り方だ。ソルダトフ氏は、「クレムリンにとって大きな成果はロシアが国際政治の舞台で再び強力なプレイヤーに復帰したことだ。世界の全ての選挙に影響力を行使できるのだ。ロシアはサイバー分野ではスーパー国家となった、という思いだ」という。

ちなみに、トランプ氏のモスクワのホテル滞在時での行動に関する文書について、ソルダトフ氏は、「文書の記述や名前が疑わしかったこともあって、最初は懐疑的だった。全て実際起きたことかを検証できないが、自分は今は文書の内容がほぼ正しいと受け取っている」と述べている。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年6月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。