選挙カーによる連呼を制限し、戸別訪問を合法化しよう!

7月2日投開票の都議会議員選挙の選挙活動が、本格する時期がやってきました。いつもながら思うのは、選挙カーによる「名前の連呼」が大騒音をもたらしているということです。

私のように”朝起きて夜寝る”という生活をしている人間にとっても不快ですが、塾の講師のように夜の仕事をしている人たちにとっては死活問題だそうです。某塾講師は、「通常は昼近くまで寝ているのに、8時過ぎに叩き起こされると体調不良になる」と言っていました。

選挙カーによる候補者名の連呼は本当に効果があるのでしょうか?
私なんぞは、投票する候補が決まっていない時は「連呼で憶えた名前だけには入れない」と決めています。選挙カーによる名前の連呼は、「選挙運動はかくあるべし」という昔からの精神論に過ぎず、実際にはマイナス効果しか生んでいないのではないでしょうか?

このような選挙カーによる名前の連呼が行われる背景には、公職選挙法で戸別訪問が禁止されているという現実があるのです。

戸別訪問とは、家ごとに訪問して選挙の投票を依頼することや、演説会や候補者の氏名の宣伝をすることを指し、公職選挙法第138条第1項、第2項で禁止されています。禁止されている理由は、買収や利益誘導などの不正行為を招きやすいためと説明さています。

政策を説明したり有権者に知らせる行為は、憲法21条で保障された「表現の自由」の中でもとりわけ重視されるものです。

「表現の自由」には”自己実現”と”自己統治”を保障する意味合いがあるのですが、とりわけ”自己統治”、つまり健全な民主主義を守るための政治的表現活動の自由は極めて重要なものなのです。世界的に見ても、戸別訪問が禁止されているのは日本と韓国くらいで、韓国での禁止は日本の統治下の影響だと言われています。

戸別訪問も政治的表現活動の一環なので、それを制限する公職選挙法が憲法21条に違反するのではないかと訴訟で争われました。下級審では違憲判決も出ましたが、最高裁な合憲という態度を貫いています。

一昔前なら、戸別訪問の際に金品や商品券を置いてくることもあり得たでしょう。
しかし、今の時代にそのようなことをやればSNSで一気に炎上してしまいます。また、インターホンが普及した現代では、聞きたくなければ簡単に「門前払い」することができるので、昔に比べて生活の平穏が害される度合いははるかに減少しています。

選挙カーでの運動を全面禁止にするのは、これまた「表現の自由」に反する恐れがあるので、音量や時間帯を大幅に制限すればいいのです。

その代わり、戸別訪問を合法化すべきでしょう。名前の連呼よりもじっくりと政策を聞いてみたいという人の方が多いでしょうし、その方が有権者としても適切な判断ができるはずです。

人海戦術になるので資金力に長けた陣営が有利になるという批判もあるでしょうが、その点は戸別訪問に当たる人員や時間帯を公選法で制限すればいいでしょう。

静謐に生活する権利に関して、日本の法制度はあまりにも無頓着過ぎるように思えてなりません。高度経済成長期は「いけいけドンドン」が優先されたのかもしれませんが、成熟した社会となった今、もう少し「大人としてのマナーや気遣い」を重視すべきだと思います。

荘司 雅彦
幻冬舎
2016-05-28

編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年6月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。