「人間の仕事の59%を奪うAI」は、人類の敵か味方か?

田原 総一朗

いま、僕が非常に興味を持っていることがある。AI=人工知能のことだ。ここ数年ニュースや新聞など、いたるところで、「AI」という言葉を耳にするようになった。

そこで僕は、AIに関わっている人たちに「いったいこれはなんなんだ?」と聞いてみた。すると彼らは、「AIと関わるには、STEM教育を受ける必要がある」と声を揃えて答えた。「STEM」とは、
「S」はScienc(科学)、
「T」はTechnology(技術)、
「E」はEngineering(工学)、
「M」はMathmatics(数学)、
のことだ。

自慢ではないが、僕はこれらすべての分野が苦手だ。これではAIと関わるのはとうてい無理そうだと思った。だから、せいぜい機会があったら使うだろうぐらいに考えていた。

ところが、昨年、『中央公論』4月号を読んで衝撃を受けた。オクスフォード大学と野村総研が行った共同調査についての記事だ。調査によると、10~20年後、日本人の仕事の49%がAIに取って代わられるというのだ。

さらに、「シンギュラリティ」という言葉も知った。人工知能が自分より賢い人工知能をつくるようになる。そして、それが繰り返され、やがて人口知能が人間の能力を超えてしまうときが来る。「シンギュラリティ」とは、その分岐点を指すのだ。

AIについて、漠然としか考えていなかった僕は、これはたいへんなことになると感じた。そして、とことん調べてみようと思ったのだ。

AI研究で世界の先端をいっているのはグーグル社だ。そこで、グーグル・ブレインの創始者、グレッグ・コラードさんに僕はまず会いにいった。そして、ほんとうに「ゼロ」からの質問を彼にぶつけてみたのだ。たとえば僕は、「いったいAIとは何なのか」といった質問をした。コラードさんとそのスタッフは、あきれた顔をすることもなく、一つひとつ丁寧に説明してくれた。

かつてのコンピュータは、人間がプログラミングしなければ、計算できなかった。ところが、コンピュータ自身が学習する、「機械学習」ができるようになった。これがAIなのだ。AIが自分でどんどん学んで、人間を置き去りにする、「シンギュラリティ」という考え方は、ここから生まれるというわけだ。

また、これまでのコンピュータではできなかった画像認識ができるようになった。そのことで、人間が「目」で確かめてやってきた仕事を、AIができるようになった。たとえば、トマトやキュウリの収穫は、人間の目と手でしかできなかった。だが、そのうちAIが、人間の代わりにできるようになるだろう。

こうしたことが、さまざまな分野で起き、「人間の仕事の49%はAIに奪われる」というわけだ。だからといって、僕は決して悲観論者ではない。AIはいまや、「第4次産業革命」を起こすと言われている。これまで産業革命が起きたときにも、「機械が人間の仕事を奪う」と言われたが、人間は別の仕事を生み出し、社会は発展してきた。

僕はいま、AIの危険性と、そして可能性を探りたいと考えている。「どうして田原がそんなテーマを」と思われるかもしれない。超文系人間の僕だが、これまでも社会を変えるような技術の取材に真っ向から取り組んできた。たとえば、40年も前に原子力発電のことを徹底的に調べ、『原子力戦争』という本を出した。コンピュータの黎明期には、マイクロソフトのビル・ゲイツさんや、ソフトバンクの孫正義さんにも直接会って取材をした。

もちろん僕は、ITの専門家ではない。だが、専門家ではない、ど素人が、どしどし質問をしていくからこそ、読者に伝えられることがある、と僕は思っている。何より、僕の好奇心が止まらないのだ。


編集部より:このブログは「田原総一朗 公式ブログ」2017年6月9日の記事を転載させていただきました。転載を快諾いただいた田原氏、田原事務所に心より感謝いたします。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「田原総一朗 公式ブログ」をご覧ください。