間抜けな行政に、旬の秋刀魚を!

「なぜ、井上さんは、2年間という限られた期間で、これほど多岐にわたる新規事業を打ち出せたのですか?」

その理由は、
→ 僕ひとりではなく、みんなで(地域内外で・官民連携で)取り組んだから

ということに尽きるのだが、

なぜ、たくさんの人が支えてくれたのか

それは、決して、僕の能力が優れていたからではない。
仕組みが優れていたことが大きいと思う。

これまでの一般的な行政は、与えられた課題(だけ)に対応するため、
・ピラミッド型
・縦割り
・公務員だけ
という組織形態だった。

・ピラミッド型の組織では、例えば、係員が新規事業に取り組むためには、係長、課長補佐、課長、次長、部長、副市長、市長の決裁を仰ぐ必要があるが、それぞれに拒否権があるので、どこかで潰されてしまうことが通例だ。
・縦割りの組織では、部局の調整に手間取り、部局の壁を越えた本質的な取組は難しい
・公務員だけの組織では、ニーズを掴めなかったり、企業や大学などの専門性を生かせない

これでは、新しいことや変化には、なかなか対応できないだろう。
間(ま)がないからだ。

組織の間
2年前の4月、小さな自治体に官僚らを派遣する地方創生人材支援制度の第1号で、鹿児島県長島町に赴任した。長島町で国家公務員が働くのは初めて。もちろん前任者なんていない。町長直轄に配属されたが、ルーティンワークはなかった。それが、良かった。

役場では、なかなか町民の本音を引き出せない。ルーティンワークがないからこそ、農家さんを訪ねて畑に、漁師さんを訪ねて海に、自由に動くことができた。

「井上ちゃん、わしがとったこの魚食べてみぃ。美味いだろ。」

「いやぁ、井上ちゃん、わしも息子が3人いるけど、高校がなくなって、みんなバスで外の高校に通うから通学費が大変なんだ。なんとかならないかな。」

こうした本音が政策の種となり、町長にすぐに提案することができて、地元に戻れば返済を全て補填する奨学金「ぶり奨学金」が生まれた。

町長直轄で新規政策を考える=組織の間があるということだ。

空間の間
地方創生担当の副町長として、ゆとりがある部屋をいただいた。

スペースがあるからこそ、役場職員だけでなく、地域おこし協力隊や長島みかん大学の大学生、阪急交通社、長島大陸エネルギーなどさまざまな人が集まり、長島の未来のためにみんなで知恵を出し合った。また、全国から数えきれないお客さんが来てくれた。

まさに、副町長室=コワーキングスペースということだ。


(副町長室のある日の昼休み)

アイデアが出やすいように、まちづくりの本やお菓子を置いたり机にホワイトボードを貼ったりした。環境や雰囲気に働きかけることが大切だ。

ちなみに、クリエイティブな企業には、必ずクリエイティブな職場環境がある。

サイボウズ松山オフィス
「ビズリーチ(BizReach)」「Google」「吉本興業」イマドキの企業の新しい発想を生み出す職場環境

既存の行政は、環境や雰囲気を疎かにしていないか?

副町長室=空間の間を生かしたことが良かった。

個人の間
前述したとおり、僕にはルーティンワークがなかった。だからこそ思いっきり町内外を動くことができた。個人の間が十分にあったからこそ、相手の懐に飛び込んで、信頼関係を築き、新規政策を実現することができた。

忙しい、忙しいという職員に限って、ひたすら資料の体裁やてにをはを直したり、あるいは作らなくてもいい資料をたくさん作ったり、出席するだけで何も発言しない会議に出席したりしていないか?

本質を見極め、個人の間をつくることが大切だ。

間抜けな行政に、旬の秋刀魚を!
既存の行政で、本質的な新規政策が極めて生まれにくいのは、間がないからだろう。ちなみに、日本語では、間がないことを「間抜け」という。

高度経済成長のように課題が明確な時代には、与えられた課題に対応すればよかった。しかし、個人のニーズが多様化し、課題が複雑化した現代では、変化に対応し、本質的な新規政策を生み出していくことが不可欠だ。

だからこそ、行政には、組織の間、空間の間、個人の間の3つの間(=サンマ)が必要ではないか。それも、常に最先端にアンテナを張る旬の秋刀魚が。

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<井上貴至(長島町副町長(地方創生担当)プロフィール>
http://blog.livedoor.jp/sekainotakachan/archives/68458684.html

<井上貴至の働き方・公私一致>
東京大学校友会ニュース「社会課題に挑戦する卒業生たち
学生・卒業生への熱いメッセージです!
http://blog.livedoor.jp/sekainotakachan/archives/68581524.html

<井上貴至の提言>
杯型社会に、求められること
http://blog.livedoor.jp/sekainotakachan/archives/68619160.html


編集部より:この記事は、愛媛県市町振興課長(総務省から出向)、井上貴至氏のブログ 2017年6月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は井上氏のブログ『井上貴至の地域づくりは楽しい』をご覧ください。