ちょっと待て、その嫌韓は国益に繋がるか?

梶井 彩子

策謀か、気まぐれか

新田編集長がUPされた書評に、思わず頷く一文があった。

〈「嫌韓」を煽る日本人に対しても、(北朝鮮による)日米間「離間」の策謀にはまっているのだと、さりげなく警鐘を鳴らす〉

思い当たる節がある。数年前、嫌韓的なネットの掲示板を見ていたところ、韓国に対する罵倒に続いて、「北朝鮮の方がマシ」という記述が続いたのに気が付いた。

これが策謀なのか、単なるネット民の気まぐれなのかはわからなかったが、早速買いに走り、読み始めた高さんの本によれば、北朝鮮の6千人のサイバー部隊は世論工作をも手掛けているという。サイバー攻撃とはインフラの破壊や情報流出だけでなく、ネットの書き込みすらを指すのだと思い知った。

ならばネット上の「ハングルによる反日的書き込み」も、「日本語による嫌韓的書き込み」も、本当に日韓の一般国民が行なったものなのか、何らかの裏の意図を持って行ったものではなかったか、疑う目を持つ必要がありそうだ。

現に、金正男暗殺時のネットの反応に関する記事(「金正男=愛されキャラ」への違和感)にも書いたが、ネット民の金正男への親近感は、韓国への嫌悪感とは比べるべくもないものだった。また、先日北陸中日新聞が一面で特集した「先軍女子特集」の紙面が批判されているが、仮に「韓流女子特集」だったらこれ以上の拒否反応があったのではないかと思わざる得ない。

進んでしまった日本の嫌韓

行き過ぎた嫌韓に、保守右寄りである筆者も驚かされることがある。2013年、国連の南スーダンミッションで自衛隊が韓国軍に対し保有する銃弾1万発を貸与した件だ。もちろん、これに紛糾した(とされている)韓国世論にも問題があるが、日本側でも「奴らに貸したって、何を言われるかわからない」「どうせ感謝されない。やるべきではなかった」などという声が聞かれたのだ。

しかし国連のミッションで言えば韓国は同じ目標のために連帯すべき友軍だ。変な話、日本がやらない(憲法の制約等で「できない」)武器を使った活動を韓国がやっているという部分もある。そうでなくとも韓国は、日本の同盟国・アメリカの同盟国だ。対北朝鮮(対中国)では「同じ側」で戦うことになる(今のところは、だが)。

政治的、あるいは国民感情的に何らかのわだかまりがあったとしても、日米韓という安全保障の枠組みは堅持すべきであり、ましてや国際平和協力という国連のミッションにおいては言うまでもないはずだ。「日本の嫌韓もここまで来てしまったか」と唖然としたものだった。

そして、安全保障にまで影響を及ぼす日本側の嫌韓(そして韓国側の反日)が誰を利するかと言えば、北朝鮮であり中国なのである。「慰安婦問題は北朝鮮の策謀」と指摘し、普段平和ボケを憂いている向きに限って韓国批判に余念がないケースもあり、訝しく思っていたところなので、冒頭の記述には頷くところが大きかった。

嫌韓は「防衛反応」、しかし……

必ずしもすべてが「嫌韓的」とは言わないが、いわゆる保守側が発信する韓国には一つの定型がある。それが「マウンティング」だ。

確かに、「韓国万歳! 日本はもうだめ」な、過度に韓国を持ち上げて見せたりする論調には疑問を呈し、韓国のおかしいところは批判すべきだと思う。

そもそも、嫌韓とはつまるところ(朝日新聞など「ヘイト本批判」チームは絶対に口にしないが)、アクションではなくあくまでもリアクションであり、「相手の言い分がおかしいから言い返す」というものだった。相手の言い分にそのまま乗っかって自国批判を展開するメディアや論者に対する「リアクション」でもあった。特に歴史問題ではそうである。「日本ばかり(歴史戦で)攻められている」という被害者意識のなせる業、ある種の防衛反応でもあると思われる。筆者は保守右寄りであるだけにこの辺りの感情は実によくわかるところである。

しかし今はそれを通り越して、「日本人である」というだけで韓国にマウンティングを仕掛ける一部論調やツイッターなどの書き込みも見受けられ、正直うんざりしている。あまりにこれが行き過ぎると、単なるヘイト、蔑視、上から目線となり、「一見、嫌韓に見えますが、実際はリアクションであり、防衛反応でして」という言説では説明しきれなくなる。

何より、「韓国を語るのに日本は関係ないのではないか?」「なぜ常に引き合いに出すのか」とは、以前は韓国紙をはじめとする韓国側の論調に対する疑問だった。しかし今はどうか。韓国叩きに余念がないのも結構だが、それに執心するあまり、北朝鮮への警戒心を薄れさせるようでは元も子もない。

北朝鮮の工作に気を付けろ!

そこで高さんの本の内容に立ち返る。韓国を悪しざまに罵り日韓離間に勤しむ「日本語アカウント」や「日本語の書き込み」は本当に善良な一般国民が書いているのか。

もし、心ある日本人が「日本のため!」と韓国disを日々展開しているなら、それが本当に国際社会において日本のためになっているかをよくよく考えるべきだろう。憂国の思いほとばしり取った行動が、実は北朝鮮の策略に乗せられただけであり、むしろ日本を危うくしているとしたら、こんなに無意味なことはない。