近所からの110番でパトカーも
先日の日曜日の午後、近所がざわつくので外に出て行ってみると、パトカーと警察官が出動して、人だかりがしていました。何か事件かな、思いました。警察官は5人もいるのです。最近、九州で警察官が自分の妻子3人を殺したばかりです。場所は中央線国立市の静かな住宅街です。嫌な気分です。
近所の人に聞いてみると、なんと、親ガモが5羽の子ガモも連れて、巣立ちする途中の事件だったのです。どこかの近くの池で育ったのでしょう。あちこち歩き回るうちに、1000坪以上はある住宅地造成中の空き地に入り込みました。広々とした空き地は囲いがしてあり、日曜日のことで工事の人がいなかったので、安全と思ったのでしょう。
造成中といっても、ブロックで区画の仕切りがつけられ、段差があり、小さな子ガモは前に進めません。ピーピーをわめく鳴き声。何事かと増える人だかり。驚いた親カモは上空に舞い上がり、グアーグワー。珍しい光景なので人だかりがますます大きくなり、驚いた近所の1人が「こういう時はとにかく110番」、もう1人が駐在所に駆け込みました。
親カモは上空からグアーグワー
パトカー1台、警察官5人が捕獲網を持参して急行してきました。日本では子ガモ騒動に警察が駆けつける平和国家です。5羽の子ガモは捕獲され、大きな段ボール箱に収容されました。親ガモも捕獲できれば、一緒に川辺か池に放つことになります。だれかが「親ガモを捕まえろ」と叫びます。親ガモは物々しい雰囲気に恐れをなし、上空からまた、ひと際大きな声で、グアーグワー。お手上げです。
結局、面倒見のいい住民が一晩、自宅に預かることになりました。翌日、獣医さんか鳥類センターに連絡して、引き取ってもらい、あとは任せたことでしょう。
夕刻、現場を離れる警察官に「こういう場合、どうするのか」と尋ねました。1人は「野生動物は野生の摂理というものがあり、警察はこれ以上、関与せず野生に任せる」と、難しい説明です。もう1人は「鳥獣保護法があり、警察は野生動物を保護はしない。野生の動物は野生に返すことになっている」と、法律用語を使いました。
生命の尊さを知る風物詩
この時期、カルガモの巣立ちがあちこちで見られます。大手町の三井物産ビルから皇居の堀に引っ越しする子ガモの行列は東京の風物詩です。カモは水生植物、タネ、昆虫などを食べる雑食です。食事、泳ぎ方、飛び方も親の仕草をまねて、習得していきます。「親から離して、保護してはいけない」、「子ガモに限らず、ヒナを拾ってはいけない」だそうです。
日本野鳥の会では、「手を出さず、その場を離れて見守ってほしい」と、呼びかけています。原則はそうなのでしょうね。数羽の子ガモが巣立ちしても、1年後も生存しているのは、1、2羽だそうです。自然界では、たくさん産んで、自然淘汰に任せ、強い種が生き残る。日本では、少なく産んで、それも親が殺してしまうケースが増えています。どちらがいいのか。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2017年6月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。