ユーロポールの「テロ年次報告書」

欧州警察機関(ユーロポール、EUropol)が15日、マルタで公表した「2017年テロ年次報告書」(EUテロ状況と傾向リポート)によれば、欧州連合(EU)での昨年のテロ件数は142件で、逮捕者数は1002人、犠牲者数は142人、負傷者数は379人だった。テロが起きた加盟国は8カ国だ。

▲ユーロポールの「2017年年次テロ報告書」(EUテロリズム状況と傾向リポート)

テロ件数では英国が76件で半分近くを占め、次いでフランス23件、イタリア17件、スペイン10件、ギリシャ6件、ドイツ5件、ベルギー4件、オランダ1件の順となっている(実行および未遂件数)。

テロ件数をもう少し詳細に見ると、「民族・独立派グループ」によるテロ件数が99件。それに次いで「左翼暴力過激派グループ」が27件で、2014年以来増加傾向にある。「左翼暴力過激派」によるテロ事件の逮捕者は31人で、イタリア、ギリシャ、スペインで起きている。
一方、「イスラム過激派グループ」による昨年のテロ件数は13件で2015年(17件)比で4件減少したが、そのうち6件はISが直接関与。件数では少ないが、犠牲者数では総数142人のうち135人が「イスラム過激派」テロによるものだ。

また、逮捕者数1002人のうち、イスラム過激派の数が増えてきた。2014年395人、15年687人、16年718人だ。1002人のうち291人は25歳以下の青年たちだ。「イスラム過激派グループ」によるテロでは女性や未成年者の関与が増えている。昨年逮捕者の26%が女性だった。

テロでは爆発物の使用件数が全体の40%だ。シリアやイラクでの戦闘で学んできたイスラム過激派グループが無人機や高性能な爆発装置(IEDs)など新しい武器をテロに使用する傾向が見られる。テロの資金源として、テロリストの40%が麻薬の密売、窃盗など犯罪行為を通じて資金を集めている。

ユーロポールのロブ・ウェインライト長官(Rob Wainwright)は「テロ報告書」の中で、「欧州は2015年以降、前例のないイスラム過激派のテロに遭遇している」と指摘、テロの終焉の見通しはないと強調している。ユーロポールが警戒しているのは、「ローンウルフ型のテロリスト、シリアから帰国したIS戦闘家たち」という。

EUの政策執行機関、欧州委員会のディミトリス・アプラモプロス移民・内務・市民権担当委員は、「欧州での最近のテロ事件からいえることは、われわれは連帯、結束してテロと戦わなければならないということだ。その為には相互信頼しなければならない。テロ対策はわれわれの共通の政治的優先課題だ。欧州だけではない、世界全てがそうだ。情報の交換、国境を越えた協調が不可欠だ」と述べている。

ちなみに、ユーロポールの「欧州テロ対策センター」(ECTC)は昨年、127カ国のテロ対策捜査を支援している。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年6月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。