【映画評】キング・アーサー

渡 まち子
King Arthur: Legend Of The Sword

中世のイングランド。両親を殺され孤児になった青年アーサーは、スラム街の売春宿で育ち、たくましく生き抜いてきた。彼の両親の命を奪った暴君ヴォーティガンは、やがて自分を殺すであろう青年を探していたが、アーサーは、まだ、自分がかつてのイングランド王の一人息子であることを知らなかった。やがて聖剣エクスカリバーを手に入れたアーサーは、自らの過去と、亡き父王の代わりに王座を奪還する運命を知り、仲間の力を借りて立ち上がる…。

アーサー王伝説を新感覚で描いたソード・アクション「キング・アーサー」。中世の伝説の英雄アーサー王は、元祖ヒーローと言われ、小説、オペラ、舞台、コミック、アニメ、ゲームとさまざまな形で描かれてきた。映画でも数えきれないほどの作品があるが、本作は、いわばアーサー王の誕生秘話。物語の背景は、人間と魔術師が共存する混沌とした世界だが、主人公のアーサーは、格闘はカンフー仕込み、タフで仲間思いの心優しいストリート系ヒーローである。ガイ・リッチー監督は、手垢がついたストーリーを、主人公のキャラをイマドキ感満載にした上で、格調高さや文学的な趣をバッサリと切り捨てて、スピード感あふれるアクション・エンターテインメントとして描き切った。CGIも気合が入っていて、冒頭の巨大な象が登場するバトルは大迫力だし、セイレーンや湖の乙女の描写は幻想的で恐ろしくも美しい。もっとも“スラムのガキから王になれ”の下剋上的なキャッチコピーは、もともと王位継承者だった主人公の出自を思えばさほど響かず、なるべき人が王になる英国はやっぱり階級社会か…との思いがよぎった。

聖剣エクスカリバーを岩から引き抜く重要なシーンで、特殊メイクのベッカムをカメオ出演させた後は、誰もが知っているカタルシスに向かって一直線に突き進む。魔術と権力に取りつかれた暴君ヴォーティガンが「今、ここにいるのもお前が原因だ。お前が俺を創った」と語るが、それがそのままアーサーの口を通して語り直されるとき、伝説や物語特有の因果応報がくっきりと浮かび上がる。華やかでスピーディー、時にコミカルでアクション満載の若きアーサー王の物語は、歴史ものはちょっと苦手な映画ファンにもおすすめの活劇に仕上がっている。
【60点】
(原題「KING ARTHUR: LEGEND OF THE SWORD」)
(アメリカ/ガイ・リッチー監督/チャーリー・ハナム、ジュード・ロウ、アストリッド・ベルジュ=フリスベ、他)
(下剋上度:★★★☆☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年6月17日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式Twitterから)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。