エリザベス女王「国民は結束を!」

長谷川 良

エリザベス女王(91)は17日、慣例の女王誕生日パーティを前に声明を出した。女王は英国の現状を振り返りながら、「英国はこれまでも厳しい試練を乗り越えてきた。国民は結束して困窮下にある人々を支援していこう」という趣旨のメッセージを発信した(女王の誕生日は4月21日だが、誕生祝賀パーティは通常6月第2土曜日(6月17日)に行う)。

▲大火災を起こしたロンドンの高層公営住宅タワー(BBC放送から)

女王が指摘した「厳しい試練」とは、マンチェスターやロンドンで発生したテロ事件やロンドン高層公営住宅の火災などを指していることは間違いないだろう。

ロンドンで3月22日、一人の男が車を暴走させ、ウェストミンスター橋上の歩行者を轢き、ウエストミンスター宮殿敷地に入り、警官を襲うというテロ事件が起き、5人が死亡した。5月24日には、マンチェスターの英国最大のコンサート会場「マンチェスター・アリーナ」(2万1000人収容)で米人気歌手のアリアナ・グランデさん(23)のコンサートが開かれたが、彼女が歌い終え、舞台から姿を消した直後、会場ロビー周辺でイスラム過激派の自爆テロが発生し、22人が死亡、59人が負傷した、犠牲者の22人のうち、12人は16歳以下で、最年少は8歳の女の子だった。先月3日にはロンドン中心部のロンドン橋で3人のテロリストがワゴン車で歩道を暴走し通行人を轢き、その後、車から降りて近くの繁華街「Borough Market」で人々を刃物で襲撃する事件が起きた。8人が死亡、48人が負傷して病院に搬送されたばかりだ。

そしてロンドン西部の24階建高層公営住宅で今月14日発生した大火災で58人以上の行方不明者が出ている。30人の遺体が既に確認されている。犠牲者数は今後増えると予想されている。

エリザベス女王でなくても「どうして英国で不幸が多発するのか……」と嘆く国民が出てきたとしても不思議ではない。国も人の一生と同じで勢いがある時とない時がある。俗にいえば、運勢がいい時とそうではない時だ。運勢や勢いに乗っている時は全てがうまく回転するが、そうではない時は不幸や悲しい出来事がまとめて短期間に襲ってくるように感じるものだ。

英国は今、勢いを失っている時かもしれない。英国の政情を振り返れば分かる。議会の過半数を失ったメイ保守党政権は議会運営で苦慮せざるを得ない。その上、19日からいよいよ国家の運命を左右する欧州連合(EU)との離脱交渉がスタートする。政治の混乱や未来への不確かさは社会、経済、文化など各方面に見られだした。その意味で、英国民は今、厳しい試練に直面しているといえる。

エリザベス女王はテロの現場マンチェスターを視察し、16日には被災者が収容されている施設を訪問し、そこで支援活動する国民の姿に感動している。マンチェスターのテロ事件後、慈善コンサートが開催され、犠牲者支援基金ができた。国民の自主的な連帯感の表れだ。試練を国民の結束と連帯感を強化する機会としてほしい、という願いが込められているはずだ。

ただし、英国の現実はやはり厳しい。19日から始まるEU離脱交渉でも“ハード・ブレグジット”と“ソフト・ブレグジット”で英国内は依然分裂気味だ。高層公営住宅の火災については、被災者だけではなく、市民からも火災原因の真相解明を求める声が出てきている。英国の現状は結束より分裂を広げる状況下に置かれている。それゆえに、エリザベス女王の「結束を!」という誕生祝賀開催日の異例のメッセージとなったのだろう。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年6月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。