「声の通りが悪い」「滑舌がよくない」「自分の声が嫌い」など、自分の声に悩んでいる人は少なくない。私たちは、生まれてきてから育った環境で発声や話し方を身につけてきているが、プロに学んだことがない。では「プロの声」とはどのようなものだろうか。
『どんな人でも好感度アップ! の声の魔法』(青春出版社)の著者である、宮川晴代(以下、宮川氏)は、アナウンサー、司会など、声のプロとして仕事をしている。いまではプロ・アマを問わずヴォイスアップコーチとしての評価も高い。今回は、声による人間関係改善の事例を聞いた。
信頼される上司の声には特徴がある
――人間関係改善にも色んな方法がある。声をベースにした手法はめずらしい。
「ある日、次のような相談がありました『このところ、社内の人間関係がしっくりいっていないんです。1人の社員の態度が原因で、社内の空気が悪くなり、すべてが悪い方向に進んでいます。お客さまの前でも影響が出て困っています。どうにか改善できませんか』。聞き終えてから、原因と思われていた社員の方と話をすることができました。」(宮川氏)
「すると、社長さんの印象とは、また違った事実が見えてきたのです。この社員さんは、『社長が自分たちに声をかけてくれない』『自分たちを軽く見ている』と感じていました。そこから仕事に対する熱意を失い、態度が悪くなっていったのです。」(同)
――つまり、社長の思惑と、社員のとらえ方に大きなギャップが生じていたことになる。
「社長さんは『仕事がしやすい環境』を提示してきたつもりでしたが、それが社員さんに伝わらず、軋轢を生み出していたわけですね。経営者と社員では、立場も違いますし、年代も違います。同じ方向を目指して、一緒に働いていくためには、質の高いコミュニケーションが不可欠です。」(宮川氏)
「ここでも『声』が重要な要素となります。声の出し方を間違っていると上司としての信頼度が揺らぎ、トラブルを招く危険もあるからです。発言内容が間違っていなくても、その場にふさわしくない発声をしていると、部下は素直に従ってくれないでしょう。」(同)
――それでは、信頼される上司の声とはどのようなものだろうか。
「信頼される上司の声には、次ぎの2つの要素があります。
・どのようなときも落ち着きのある声
・堂々とした信念を感じられる声
そして、『きびしい声』『やさしい声』を使い分けることができます。この正反対の声を出していたら、部下になかなか信頼されません。」(宮川氏)
「部下の前で落ち着きなく、感情を声に出しているようでは、『つき合いづらい上司』『気分屋でわからず屋の上司』といわれてしまうでしょう。」(同)
感情的な話し方は意欲を低下させる
――ビジネスシーンに限らず、個人的な感情をストレートに出していると、「自分をコントロールできない人」と見なされてしまう。一方的に脅すような強い声で話したり、粘っこい声で嫌みっぽく話すことも危険である。確実に、部下のモチベーションを低下させる。
「部下に受け入れられる『落ち着きのある声』『堂々とした声』は、腹式呼吸で声を安定させ、聞き取りやすいトーンで話すことで実現されます。部下が理解しやすいように、『表現』を工夫するのも効果的です。くり返しながらゆっくり話すことで、部下は聞く耳を持つようになります。」(宮川氏)
「ねぎらいの言葉をやわらかくいうことも、信頼関係を深めるのに有効です。『がんばってるな』『上手くいってるか』『おまえならできる』。そうした受け入れやすいメッセージを、感情に響く声で発するだけで、部下のモチベーションは上がります。」(同)
――これは、心理学の「返報性の法則」といわれるものだ。こちらが好意を持って働きかければ、相手も好意で返してくれる。部下に好意を持った「声がけ」を続けることで、部下も「この上司の役に立ちたい」という好意を返してくれる。
「あなたが部下の立場なら、上司に好意を持った声がけをしてみましょう。やがて上司にも『かわいい部下』と思ってもらえます。上司と部下の双方にいえることですが、仕事に行き詰まりを感じていたら、まずは声から変えてみましょう。」(宮川氏)
――なお、宮川氏の声にはストラディバリウスと同じ周波数で、脳波にα波が現れる「1/fゆらぎ成分」を含んでいることが評判になり、声のプロに転身したそうだ。次回は、「ストラディバリウスと同じ周波数」について聞いてみたいと思う。
参考書籍
『どんな人でも好感度アップ! の声の魔法』(青春出版社)
尾藤克之
コラムニスト
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