汕頭大学・長江新聞與伝播学院(ジャーナリズム・コミュニケーション学部)の映像学科では、毎年、卒業論文の代わりに映像作品の制作も奨励している。ほぼ1年をかけ、劇映画から記録フィルム、アニメまで多様な作品が完成する。1人で対象を撮り続ける学生もいれば、俳優から脚本、美術、照明、音楽まで下級生数十人のスタッフを従え、監督とプロデューサー役としてドラマを仕上げる者もいる。その発表会が6月15日から18日まで、汕頭市内の映画館や大学図書館を会場に行われ、約30作が上映された。
マイナーな地元方言の潮汕語によるヒップホップに挑む若者たちを描いた「Teoswan Hustlers(潮汕のハスラー) 」や、汕頭に出稼ぎに来ている農民家庭の教育問題を取り上げた「外省仔」、うつ病を抱える若者と家族の苦悩を追った「與抑郁同行」など、議論の分かれる社会問題を、独自の視点で、困難な人間関係を築きながら、よくやり遂げたものだと感心する。
特に驚いたのが、シリコンドールに囲まれ、貴州の山奥で暮らす59歳の父と18歳の一人息子の奇妙な生活を撮った「她不是充气娃娃(彼女はダッチワイフじゃない)」。女子学生3人の共同作品だ。
父親は出稼ぎ労働者だった。離婚し、女性の友だちが何人もできたが、結局、長続きしなかった。大きな理由が、過剰なネットゲーム癖だった。その生活から脱するため、彼は3年前、実物大のシリコンドールを購入する。常にそばにおき、わが娘のように可愛がる。入念に髪を解かし、食卓に座らせ、時にはハイキングに行き記念撮影もする。ドライブにも連れていく。気が付くと人形は7体に増えていた。自分たちは地下に住み、彼女たちのために新しい部屋を建築中だ。彼にとって、人形たちは「性」の対象ではなく、家族なのだ。
一人息子は、学校でいじめに遭い、友だちもいない。父と同じようにネットゲームに熱中し、家事も手伝わない。父親は、息子がそうなった原因が自分の放任にあると反省し、彼を救うため、成人の記念に新たなシリコンドールをプレゼントする。そうすれば、生活の関心が人形に向かい、ゲームの世界から脱することができると考えたからだ。確かに、周辺の整理整頓はするようになった。だがゲームの世界からは抜けきれない・・・。
物語はまだ進行中だ。父子がこのまま仮想世界の中にとどまって暮らし続けるのか、それとも、人形に依存した生活から脱し、実物の世界に戻ってくることができるのか。作品はまだ結論を引き出しようがない。カメラを回した彼女たちも、同世代の彼が孤独から抜け出すことができるのか、答えが見つからない。ネットの仮想世界を浮遊する多くの若者たちに、深刻な警句を発しているようにみえた。
(続)
編集部より:この記事は、汕頭大学新聞学院教授・加藤隆則氏(元読売新聞中国総局長)のブログ「独立記者の挑戦 中国でメディアを語る」2017年6月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、加藤氏のブログをご覧ください。