神話の特徴
前段で、神にまつわる神話に加え、学問といわれる領域を付け加えたことに対して異論があるかもしれない。しかし、神にまつわる神話と学問には共通点があることを指摘したい。1つは先ほど指摘した時間的感性からストーリーを語るということであり、もう1つは各領域の中でしか、その正しさを証明ができないということである。
例えば、科学革命以来、多くの科学理論が爆発的に展開されるが、その正しさは科学理論の領域の中でしか正誤の判断はできない。この構造は神を語るときにも当てはまる構造である。
また、科学的な大発見をした人間はジーニアス、カリスマ(いずれも語源として預言者などの意味を含む)とあがめられ、現代社会の基礎的な考えを作っている。
人工知能と未来
そして、囲碁の領域で人工知能が人間の知能を超えたということが話題になっている。今後、人工知能は人間のように神話を語ることになるのだろうか。
『サピエンス全史』は、人間は狩猟と採取の生活から農耕生活に移行する際に神話を語りだしたのではないかということを指摘している。狩猟と採取の生活は短期的な目標と比較的小さな集団での行動を積み重ねていくような生活であったが、農耕生活は中長期的な目標と大きな集団での行動が必要となり、ちょうどその頃、神話が語られ出したということである。
この文脈に従えば、人工知能が中期的に大きな集団での行動を必要とした時、また、宗教家や天才科学者がそうであるように、真理と思われるものを発見した時にカリスマと呼ばれるのかもしれない。
人工知能が語る神話は科学理論上のものなのか、科学理論を超えたものなのか。神話を語ることや、クリエイションやイノベーションは人間固有の能力で、人工知能には中長期的にも持ちえない能力なのか。人工知能が神話やクリエイションを語る時、人間にはどのような仕事が残るのか。本当の人間の強みは何なのか。原点に帰って考える必要があるのかもしれない。
伊藤将人 人材系シンクタンク勤務
大手新聞社入社後、人材系シンクタンクに転職。また、フリーライターとして各種執筆活動に従事。