【映画評】結婚

結婚 (角川文庫) [文庫]
結婚詐欺師の古海健児は、小説家、空間コーディネーターなど、さまざまな職業に成りすまし、その端正なルックスと知的で優しい話術で女性たちを翻弄していた。ある日、彼に騙された女性たちが偶然つながり、古海のことを調べて行方を探し始める。彼女たちは探偵を雇い、元々は古海の被害者の一人だったが、後日、彼の相棒となった女・るり子の存在にたどりつく。古海にはたいした儲けにはならない結婚詐欺を繰り返す理由があった…。結婚詐欺師と彼に騙された女たちの姿を通して人間の業を描く「結婚」。原作は直木賞作家・井上荒野の長編小説だ。スラリとした長身に端正な顔立ち、知的で上品な話術、匂い立つような色気。これらは結婚詐欺師・古海の武器だ。彼の元被害者で、ほぼ強引に“ビジネスパートナー”になったるり子が、何のために結婚詐欺などしているのか尋ねると「女たちの嬉しそうな顔を見るのが好きなんだ」と真顔で答える。実際、古海にプロポーズされたときの女たちの顔は幸福感に満ちているし、騙されて金を奪われても、悔しさと同時に彼に対して執着心を見せる。古海はと言えば、自分は営業の仕事をしていると偽って妻の初音と幸せに暮らしているのだ。この物語には、実は大きな仕掛けがある。それは古海が大事に持っている古い写真や、彼の言動に微妙な違和感があることから、薄々察しがつくかもしれない。詳細は明かせないので言及できないが、この詐欺の描写そのものがツメが甘く、探偵を使って真実を探ったり、彼を意外な形でフォローする大富豪の女性の調査を待つまでもなく、やがては破綻する素人レベルの犯罪なのだ。物語の核心は、詐欺そのものではなく、詐欺行為を繰り返す主人公の背景と心情にあるということだろう。朝の連続ドラマでブレイクした、イケメン俳優のディーン・フジオカありきの映画だが、彼の新たな一面が発見できるので、ファンは見逃せない。
【50点】
(原題「結婚」)
(日本/西谷真一監督/ディーン・フジオカ、柊子、中村映里子、他)
(切なさ度:★★★☆☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年6月25日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式Facebookページから)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。