これは彼の新著『反脆弱性』のテーマだが、盤石にみえた安倍政権がこれほど脆弱だとは思わなかった。私の印象では、加計学園の内部文書が出てきたとき、これを菅官房長官が「怪文書」と断定し、そのあと前川喜平元次官が出てきたとき、異例に感情的なコメントをしたあたりから「割れ窓」が拡大してきたように思う。
このような脆弱性の原因は、安倍政権が安定していたこと自体にある。マスコミは「一強」と呼び、党内でも異論がなくなるので、変化のマグマが貯まっても軌道修正できない。国民の中に不満が高まっていても、それが政治的対立にならない。文科省のような三流官庁がさからっても、警察がマスコミに下ネタを流して脅せば官僚は黙る、と官邸は考えたのだろう。
政権の誤算は前川氏に天下り先がなく、失うもののない浪人状態だったことだ。常識的には事務次官の経験者がワイドショーで政権の悪口をペラペラしゃべることはありえないが、前川氏がブラック・スワンだった。官邸が警察を使って出会い系バーの話を流して抑え込もうとしたのも逆効果だった。前川氏は安倍政権にとっての石原莞爾になってしまったのだ。
タレブは日本からヒントを得たらしいが、これは近代社会に普遍的なバイアスだ。昔は社会の紛争はしょっちゅう内戦として表面化したが、17世紀以降、ヨーロッパでは内戦を抑止する主権国家がつくられ、日本では幕藩体制がつくられた。それは平和を守るシステムとしては悪くないのだが、内戦のマグマが侵略戦争として爆発することがある。
その意味では今回の都議選ぐらいは、爆発としては大したことない。次に何かが起こるのは、同じように誰も疑ったことがない「超安定状態」の債券市場ではないか。都議選の話題は、今週のアゴラ経済塾「失敗の法則」でも取り上げたい。