「カラマーゾフの兄弟3」(ドストエフスキー著 亀山郁夫訳 光文社)に、以下のような文章があります。
ところが彼は最後まで、この三千ルーブルは手に入る、金はやってくる、ひとりでに飛んでくる、いざとなれば空から降ってくると、ひたすら期待していたのだ。もっともこうしたことはドミートリーのように、相続した遺産を湯水の如く使ったり、無駄づかいすることには長けているが、どうやって金を稼ぐかについては何の知識ももちあわせていない人に、よくありがちなのである。
これを読んで、バカラ賭博で100億円以上のお金を使って特別背任罪に問われた御曹司を思い浮かべた人もいるのではないでしょうか?
彼は、自家用機で四国の実家から家庭教師のいる東京まで通わせてもらう等、何不自由なく成長したそうです。そして「湯水の如く使ったり、無駄づかいすることに長けていた」のでしょう。「どうやって金を稼ぐか」についての知識が欠けていたかどうかは私は知りませんが…。
よく、「3代目が会社を潰す」と言われます。祖父母や父母が築き上げた会社を継いで、蓄積された十分な資産があり、黙っていても会社が回ってお金が入ってくる。そういう状態になると、やることといえば、JCやロータリークラブやライオンズクラブで親睦を深めることと、有り余るお金を使うことになってしまうのかもしれません。
そこまで恵まれていなくとも、創業者や2代目が築き上げてくれた路線から外れることができなくなってしまう後継者たちがたくさんいます。
そういう人たちが会社を破綻させた時によく口走るのが、「自分の代になって景気が悪くなった。景気が好転すれば会社も立ち直ると思っていた」という言葉です。2,3年であれば止むを得ないかもしれませんが、5年、10年と、何もせずに「他力本願」だけで会社を自転車操業させている経営者が驚くほど多いのです。
「景気が好転すれば会社も立ち直る」と信じるのは、「いざとなれば(お金が)空から降ってくる」と期待するのと同じです。また、自力で再建努力をしないのは、「どうやって金を稼ぐか」を知らないのと同じです。
「今日まで無事でやってこれたのだから、明日からも大丈夫だろう。新しいことに取り組むのはリスクが大きい」という、すべての人間が持っている保守的傾向が根底にあるのかもしれません。
このように思考停止してしまった人を動かすには、拙著「説得の戦略」でも書いたように、客観的数字を示して「同業他社もやっていますよ」と諭すのが有効な方法です。同業他社というお仲間がやっていると安心できるのが人間の性(さが)です。”赤信号皆で渡れば怖くない”の世界です。客観的数字を示すのは、このままでは続かないということを頭で理解してもらう必要があるからです。
人間は、頭で理解しただけでは、決して行動には移しません。「みんながやっている」という安心感で感情を動かす必要があるのです。
あなただってそうでしょう?
真っ赤な色をした唐辛子のような食べ物が「辛さ控えめ」だと頭で理解していても、周りの誰かが口にして「全然辛くないよ」と言ってくれて初めて安心して口に運べるようなことが…。
トップが思考停止に陥って何もしない時、ナンバー2のような参謀役がやるべきことは、正確な情報を与えて一刻も早い着手を促すことです。「同業他社がやっていますよ」とトップに伝えるのは(感情を動かして行動を起こさせる上で)極めて効果的な戦術です。そのような立場にある方がいらっしゃったら、是非ダメモトで使ってみて下さい。「同業他社がやっている」は嘘でも構いません。会社を救うためであれば「嘘も方便」ですから。
編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年7月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。