「日本で軍国主義が復活する」という噂は本当なのか?

尾藤 克之

写真はケント・ギルバート氏(KADOKAWA提供)


「戦争法案反対」「安保法案反対」「日本に軍国主義が復活する」。しかし、日本に軍国主義が復活するというのは、根も葉もない妄想の類いだろう。バチカン市国(スイス軍を傭兵にしている)のような特殊な国や、隣国などに国防を全面的に任せているような小国を除けば、軍隊を持たない国は地球上に存在しない。

今回は、米国人弁護士であり、タレントとして活動をする、ケント・ギルバート氏(以下、ケント氏)の近著『米国人弁護士だから見抜けた日本国憲法の正体』 (角川新書) を紹介したい。日本の歴史と政情に精通した米国人弁護士が、日本国憲法の出生秘話や世界の憲法事情を踏まえて改憲論争の核心に迫る内容となっている。

軍国主義は復活するのか

――ケント氏は、「軍隊があるからといって軍国主義になるわけではありません」と次のように述べている。

「日本は世界トップレベルの経済基盤があって、国民の教育水準も高い。軍国主義を行う独裁的な政権や統治を排除できる、民主主義と三権分立の仕組みが機能しています。政権批判ばかりに熱心なテレビメディアや新聞ですら、停波や業務停止、発禁、逮捕などの言論弾圧を受けることはありません。」(ケント氏)

「1973年の衆議院建設委員会で、大村襄治政府委員(内閣官房副長官) は次のように答弁をしています。『軍国主義思想とは、一国の政治、経済、法律、教育などの組織を戦争のために準備し、戦争をもって国家威力の発現と考え、そのため、政治、経済、外交、文化などの面を軍事に従属させる思想をいうもの』とあります。」(同)

――現代の日本に、軍国主義が蔓延る可能性は想像し難い。安保法制の審議中から、「徴兵制になる」と恐怖心を煽る声が出始めたが根拠に乏しい。ハイテク兵器で戦う現代の戦争では、徴兵で入隊する一般人は役にたたない。

「軍人は軍隊を運用するリスクを熟知しています。ですから、軍事力の行使には慎重です。他国の軍隊同士で日頃から交流があるので、国際的な視野を持っています。」(ケント氏)

プロパガンダという事実

――ケント氏は、国家予算について次のように分析している。

「国家予算比率は国の特徴が出るものです。平等主義で高齢化社会の安全保障国家ならぬ、社会保障国家です。戦前の軍事予算比率に近い社会保障費を支出して、手厚い福祉サービスを提供しているのです。その恩恵に与る世代が、社会保障費削減=軍事費増大を認めるはずがありません。」(ケント氏)

「そもそも憲法9条を改正して軍隊を持つと、軍国主義が復活するという嘘の出所をご存じでしょうか。私も今回いろいろなことを調査していて初めて知ったのですが、実は、吉田茂首相のプロパガンダでした。」(同)

――吉田茂首相のプロパガンダとは次ぎのことを指す。

「いわゆる、『軍国主義者』というのは、官僚派である吉田首相の政敵たち、とりわけアンチ吉田の筆頭である、鳩山一郎氏のことです。日本の早期の自主独立をめざす鳩山氏は再軍備に賛成で、憲法改正にも意欲的でしたが、公職追放を解除されて政界に復帰したのは、1951年になってからでした。」(ケント氏)

「こうして、吉田首相が再軍備を『軍国主義者』と結びつけたプロパガンダを展開したのです。その方法は、自ら宣伝するのではなく、社会党左派に『再軍備反対』のアジテーション(扇動)を依頼することでした。当時の社会党左派は見事に吉田首相の期待に応え、社会党は1951年、再軍備反対を党議で決議しています。」(同)

アジテーションの目的

――アジアの近隣国が、いまだに日本の軍国主義者の復活を声高に非難するのは、日本の再軍備がアジア諸国への脅威になると、アジテーションすることで、改憲勢力の台頭を抑える効果を狙っていることになる。

安倍首相が具体的なロードマップを引いたことで、憲法改正は国民にとって最大の争点となっている。「自衛隊は必要だと思うが、憲法の条文からすれば憲法違反だ」「憲法9条を改正して軍隊を持つことには抵抗がある」。そのような人にこそ本書をお奨めしたい。

米国人弁護士だから見抜けた日本国憲法の正体』 (角川新書)

尾藤克之
コラムニスト

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