東京都の小池百合子知事が都民ファーストの会の代表を辞任し、野田数幹事長が代表になりました。野田さんは2012年に「東京維新の会」のメンバーとして「占領憲法に関する請願書」を出しました。
そこには「占領憲法(日本国憲法)が憲法としては無効であることを確認し、大日本帝国憲法が現存するとする都議会決議がなされることを求めます」と書いてあるのですが、なぜ憲法が無効なのかよくわかりません。「大日本帝国憲法(明治憲法)が現存する」というのも、この請願では根拠がはっきりしない。
ただこれは、まったくナンセンスな話ではありません。政府の公式見解では、今の憲法は「大日本帝国憲法の第73条による手続きで改正した」ということになっていますが、73条には「将来この憲法の条項を改正するの必要あるときは勅命をもって議案を帝国議会の議に付すべし」と書いてあります。
だから正式の手続きとしては、「憲法改正の勅令」にもとづいて政府が帝国議会に改正案を提案しなければいけないのですが、そういう手続きは踏んでいません。政府の出した明治憲法の修正案をGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)がパーにして、「マッカーサー草案」をもとに1週間で書かれたのが今の憲法です。
中身も明治憲法とはまったく違うので、本来なら「明治憲法を廃止して新しい憲法を定める」という手続きをすればよかったのですが、1946年10月に衆議院で明治憲法の改正として可決されました。この手続きに不備があったので明治憲法は今でも有効だ、という意見は成り立ちますが、そんなことをいったら昔の御成敗式目も大宝律令も、廃止の手続きはとられていないので今でも有効です。
それより実質的な問題は、マッカーサー草案は日本国民の代表者が書いたものではないということです。この点で憲法の正統性に疑問があることは、当時から法律家が指摘していました。これに対して東大法学部の宮沢俊義教授が1946年5月に打ち出したのが、「8月革命」という説明です。それによると
この変革は、憲法上からいえば、ひとつの革命だと考えられなくてはならない。憲法の予想する範囲内において、その定める改正手続によってなされることのできない変革であったという意味で、それは憲法的には、革命をもって目すべきものであるとおもう(「八月革命と国民主権主義」)。
革命というのは、フランス革命とかロシア革命みたいに、王様の権力を国民が暴力で奪い取るものですが、1945年8月15日に天皇の地位は変わらないで「革命」が起こったというのです。変な説明ですね。この憲法を制定したのは「主権者たる国民」ということになってますが、国民主権は新憲法で初めて定められたので、これは循環論法です。
宮沢もおかしいと思ったらしく、あとからいろいろ混乱した説明をしているのですが、そのうちこれが「通説」になってしまいました。それは東大法学部の憲法学の教授がそう決めたからだというだけで、論理的には成り立っていません。
だから「新憲法は無効だ」という野田さんの話もわからないことはないのですが、今ごろ明治憲法を復活するわけにはいきません。こういうややこしいいきさつをリセットするためにも、本当に国民の意思で憲法を改正したほうがいいと思います。アゴラ夏合宿では、こういう問題をみなさんと考えたいと思います。