教育の情報化は授業を受ける子ども目線で!(上)

「文化庁報告書に見る政府立法の限界」(上) (下)で、文化庁報告書(執筆時点では「法制・基本問題小委員会中間まとめ」だったが、その後、文化審議会で了承され、文化審議会著作権分科会報告書となった)では、第1章の「新たな時代の時代のニーズに的確に対応した権利制限規定やライセンシング体制等の在り方」の問題点を指摘した。報告書の第2章は「教育の情報化の推進等」だが、これについては国会や官庁内でも議論を呼んでいる。

衆議院文部科学委員会
5月17日の衆議院文部科学委員会で小林史明議員(自民党)が遠隔教育について質問した。少し長くなるが、問題点を網羅しているので、議事録を以下に抜粋する。配布した資料を簡略化したのが上表である。

小林(史)委員 (前略)ここからちょっと細かい議論に入っていきますが、遠隔教育を推進した方がいいよねということでは共通していると思うんですが、現場でそれをやっていくに当たって、わかりづらいところであったりとか、それを阻害するようなものがあるとなかなか前に進まないんだと思っています。
その一つが、きょう皆さんに配付をしている、遠隔教育と著作権というものの類型でありまして、左から一、二、三、四、五とある。(筆者注:四、五については割愛した)。

どういうときに著作権の侵害にあたるのか、それを補償しなきゃいけないのかということで、今類型別に分かれているものがあらわされているんですが、対面の教室というのはおいておいて、遠隔合同授業というのが二番にあります。これは、お互いに、科目の先生がいらっしゃってそれぞれ授業をやっている。ある地域が過疎地だとすると、子供の数が少ないので、二教室を結んで擬似的に大きな教室を実現するというのが、ある種の遠隔合同授業の目的なんだろうと思っています。

このときには、何か著作物を配信しても、それは補償の対象にならない。例えば最新の音楽を鳴らして、この歌手の曲はどうですかという話をして音楽の授業で使ったとしても、これは著作権侵害には当たりません。こういうことになります。場合によっては、何か、きょう出た、例えば最新の直木賞作家の書籍をコピーして、遠隔にいる生徒に対して、iPadにそれをメールで、ぜひこれを読んでみてくださいということで学校の先生が配信をした、ではそれはどうなるかというと、著作権にはひっかからない、こういうことなんですね。

でも、三番の同時双方向型の遠隔授業、こういうことになると、今度は、これは教室ごとをつないでいるわけなんですけれども、この類型に入った瞬間に、著作権侵害です、こういうことになって、許諾をとりなさいということに今なってしまっているわけですね。これは生徒側からしたら全く変わらない状況なんです。遠隔で授業を受けているという状況で、でも、配信されるコンテンツで、これは許諾が必要か必要じゃないかというのが分かれてしまっている。

こういうことがあるというのは非常にわかりづらくなってしまうと思うんですが、これは文化庁さんだと思うんですけれども、何でこういう分け方をしているのか、ちょっと教えていただけますか。

中岡司政府参考人(文化庁次長)が平成15年の著作権法改正で二番の遠隔合同授業を権利制限の対象とした経緯などを説明。

小林(史)委員 これはすごい意地悪な言い方になっちゃうかもしれないんですけれども、二番と三番というのは、そこに生徒がいるかいないかだけなんですよ。なので、授業をやっている、それぞれに先生と生徒がいる。片方の教室から生徒は何かわけがあって退室をしてしまったといった瞬間に、三番の類型に入っちゃうんですね。これは非常に何か微妙な運用だなというふうに思うんですけれども、これは聞いちゃっていいですかね。もしそうなら、許諾をそこからとれという話になるのか。

中岡政府参考人が現在の法的整理としてはそうなると回答。

小林(史)委員 理事の方から笑みが漏れていますけれども、やはりちょっとおかしいんじゃないかということなんです。

もう一個、最後、みなさんに見ていただきたくて、これは本当におかしいと思うんですけれども、一番の対面教室なんです。これは対面の教室で、本当に一対多数の教室で先生が授業をしている。そこで、勿論、最新の音楽を鳴らしました、それは全く問題ないわけです。それで、けさの新聞記事がねということで、きょうも多分けさの新聞記事について質疑が後で行われるんだと思いますけれども、それを配るというふうにやると、それは学校の授業だから別に問題ないよ、こういうことになるわけですね。でも、今、学校の教室に例えばiPadが配られている部屋がある。そこに学校の先生が、その新聞記事をスキャンしたものをiPadで配信をした、これを見なさいと言った瞬間に、許諾をとれということの整理になっているんですね。これはやはりおかしいですよね。紙で配ったらオーケー、でも電子端末に配信したらエヌジー。今どき、紙で配られたら、小学生でもそれをスキャンして幾らでも何でもネットに載せられる、こういう状況ですから、ここが違うのはやはりおかしいんだと思うんですね。

これを今、改正してなるべく整理をしていこうということで文化庁さんは動いていらっしゃるんだと思うんですが、こういう原則の違いというか細かい運用の違いは、やはり現場でICTの導入を阻害するし、遠隔授業もやりづらいな、こういうことになっちゃうんじゃないか、こういうふうに思いますが、文化省としていかがお考えでしょうか。

中岡政府参考人が著作権分科会で議論してきた事実を紹介し、その議論を踏まえて必要な制度改正に望みたいと回答。

小林(史)委員 今配付させていただいている資料のオレンジのところが、もともと許諾が必要であるということで、今、許諾不要に検討していますということなんですけれども、今の検討状況だと、緑とオレンジの枠の違いは変わらないまま検討中ということなんですね。

せっかく検討するんだったら、まずこの枠のあり方から検討するべきだと私は思うんですよ。許諾が不要になったとしても、さっきのiPadに配るかコピーを配るかという中で、コピーをiPadに配った瞬間からお金が発生します、これだけは残るわけですね。これはやはり、これを機に整理をしないと、現場でいろいろな権利者と意見交換をしながら調整をして、御苦労されているのは本当によくわかります。一歩一歩というのもわかるんですけれども、これまで一歩一歩の小出しをやってきた結果、この国の制度というのは前に進まないし、利活用が進まないまま終わってきているというのが、私は反省だと思うんですね。やれるときにはきっちり切って、しっかり整理をする。

これは、文化庁としても、そして教育を実施する側の文科省としても課題は認識をしているわけですよね。意見交換をさせていただいてもそういう状況だったわけですから、やはりこれを機にしっかり、大臣、両方とも文科省の下にある組織ですから、リーダーシップをとっていただいて、ぜひ整理をしていただきたいと思います。

そのときには、二つの整理の仕方があって、ここの、従来言われているように、全ての著作権に関しては必ず使用には対価を払っていくんだ、一方で、学校で使うんだから少し割引いてね、こういう全部お金を払ってもらうという方式もあるし、アメリカ型のフェアユースという方式もあるんだと思います。

何にせよ、細かい運用で区切る法律はもう改めて、全体を包括的にどう考えるか、こういう制度でぜひお考え直しをいただいて、これからの法制度に進んでいただきたい、これをお願いして、私の質疑を終わりたいと思います。ありがとうございました。

(つづく)