米上院のヘルスケア改革案、8月休会までに過半数を獲得できるのか

上院は、遂に医療保険制度改革(オバマケア)代替案を発表しました。ここでは、最近の米国メディアに合わせてヘルスケア改革案と呼ぶことにしましょう。

そもそも、上院のヘルスケア改革案の原案、「より良いケアの和解法(BCRA)」はどうだったのか議会予算局(CBO)の試算をもとに振り返っていきます。ちなみに、下院との比較はこちらでご覧下さい。

・2026年にオバマケアと比較し被保険者が2,200万人減少
2018年には1,500万人が無保険者
・無保険者が占める人口の割合は2016年後半に11%へ低下、足元で無保険者は2,600万人のところ、2026年には4,900万人へ増加
・2014年に成立した低所得者層向け公的医療保険(メディケイド)の拡張を段階的に撤廃、向こう10年間でメディケイド拡張の予算を7,720億ドル縮小
税額控除額は2026年までに4,080億ドル減少、個人加入市場では補助金を削減
・2017年と2026年を比較した予算、3,210億ドルの減少

詳細は、以下の通り。


(出所:CBO

<今回の修正案で追加された主な項目>

・鎮痛剤(オピロイド)使用者向けの補助金、450億ドル
→ロブ・ポートマン(オハイオ)、シェリー・ムーア・カピート(ウェストバージニア)が支持
※イエレンFRB議長、7月13日に米上院銀行委員会で男性の労働参加率の低下に鎮痛剤”オピロイド”利用者の増を指摘。

・テッド・クルーズ(テキサス)案“Consumer Freedom Option”を導入
※別名“スキニー・プラン”とされる内容は必要最低限をカバーしコストを抑制する保険商品の販売を認めるもの。心療内科、救急治療、入院、妊婦や新生児向けサービスなどを除外している。

<オバマケアで導入した富裕層向け増税を維持>

・富裕層(独身で20万ドル以上、夫婦で25万ドル以上)の投資収益に対し3.8%、所得税に0.9%の上乗せ

上院案と下院の比較がひと目で分かるチャートは、こちらをご参照下さい。

上院で共和党は52議席を有しているため、可決には51票が必要となります。しかし、引き続き一枚岩の様子を見せていません。

●動議に反対
ランド・ポール(ケンタッキー)、スーザン・コリンズ(メイン)
※コリンズ議員は、議会予算局(CBO)の試算でメディケイドへの削減額が同議員の予想以下にとどまるならば賛成すると条件付き

●メディケイドの予算削減に反対
シェリー・ムーア・カピート(ウェストバージニア)、ジョン・マケイン(アリゾナ)
※ご参考:メディケイド拡張を採用した州マップ

●代替案を推奨
リンゼー・グラム(サウスカロライナ)、ビル・キャシディ(ルイジアナ)

トランプ米大統領は12日、クリスチャン・ブロードキャスティング・ネットワークでのインタビューで、上院が改革案を可決しなければ「大いに憤るだろうし、多くの人々も激怒する(I will be very angry about it and a lot of people will be very upset.)」と圧力を掛けました。共和党内でも、中間選挙を前に税制改革を協議すべく可決に望みをつなげたいところ。「誰しも悪役になりたくない(Nobody wants to be a bad guy)」ムードが漂いながら、それぞれの票田を意識し、駆け引きは続きます。上院は8月休会を第3週まで2週間延期しましたが、熱闘甲子園が終幕に近づくまで政治ドラマも熱戦が演じられそうです。

(カバー写真:Pictures of Money/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2017年7月14日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。