「北」との対話の必要性とその限界

長谷川 良

韓国の文在寅政権は17日、北朝鮮に対し軍事会談と赤十字会談を提案した。韓国紙中央日報(日本語電子版)によると、「今回の政府の提案は文在寅大統領が6日、『ベルリン構想』として知られている『新韓半島(朝鮮半島)平和ビジョン』の後続措置だ。韓国政府の北朝鮮への提案の核心内容は21日、板門店で軍事会談を開いて軍事境界線一帯での敵対行為の中断を議論する一方、南北赤十字会談を開いて離散家族対面を推進するということだ」

▲北との対話に乗り出した文在寅大統領(韓国大統領f符の公式サイトから)

対立している者同士、国同士が対話することは基本的にはいいことだ。とりわけ、朝鮮半島では南北間の対話が欠かせないが、同時に、北との対話がどのような意味があるかを韓国側は慎重に検討し、次の一手を考えなければならないだろう。過去の韓国政権は、北側に対話を申し出たことがあるが、その成果はどうだったかを忘れてはならない。

独裁国家・北朝鮮にとって、韓国との対話に応じる時には明確な目的がある。離散家族の再会問題でも、北にとって経済的利点があるから応じるのだ。また、米国の軍事的介入というシナリオを回避するために防衛線を張る狙いもあるだろう。

米日韓は北側に非核化を要求している。核・ミサイルの開発停止と放棄だ。そのために、国際社会は厳しい経済制裁に乗り出している。対話はその目的を促進するものでなければならない。障害となってはならない。

「対話」はいい言葉だ。対話するのを止めろという人は少ないだろう。なぜならば、紛争を解決し、最終的に和解するためには対話が不可欠だからだ。北に制裁を強化している米日両国も、北に対話を申し出た韓国側に、「制裁の効果を失うから対話をしない方がいい」と助言することはできない。

実際、菅義偉官房長官は18日、「南北間の対話が制裁に悪影響を与えるとは思わない」というコメントを出している。それ以外、答えられないだろう。菅長官が「韓国は対話はしない方がいい」といえば、ソウルは激怒することは目に見えている。

しかし、北との対話には常に一定の危険が伴う。戦略的にみても、制裁を強化している時だけに、対話はあくまでも目標を明確にし、その目標が達成できない時は潔く対話テーブルから出ていく賢明さを忘れてはならない。北の瀬戸際外交、対話路線が何を意味するか韓国側は過去、十分すぎるほど学んできたはずだ。

もちろん、北側は今回の韓国政府の提案に返答していない。文大統領のベルリン構想を「寝言のような詭弁」と酷評している北側だ。現段階で南北対話云々といっても時期尚早かもしれないが、北は米日韓に楔を打ち込む狙いから必ず応じてくるとみている。

その時だ。韓国側が対北対話での成果を焦るようだと、北側に付け込まれる恐れが出てくる。ましてや、北側は南北首脳会談という美味しい議題をちらつかした時、果たして文政権は首尾一貫した姿勢を貫くことができるだろうか、といった一抹の不安がある。

北側にとって、核問題は韓国との間の議題ではなく、米国とのテーマだ。その意味で、韓国側が対話で非核化問題を話し合うこと自体に限界がある。

対話、人道、和解、寛容という言葉が北の外交官の口から飛び出したら、韓国側は注意する必要がある。北側が人道、民族の和解という表現を使いだしたら、「あなた方こそそれらにブレーキをかけてきた」と指摘する度胸が必要だ。「人道的連帯」とか「民族の和解」といった甘い言葉には乗ってはならない。

韓国の新政権が早々と対話のカードを切った、というニュースを聞いて、お節介かもしれないが、警告を発した次第だ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年7月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。