前川元事務次官は菅官房長官に感謝したらどうか --- 山田 高明

寄稿

少し前に「週刊朝日」で、作家(らしい)の室井佑月氏が、いかにも朝日新聞のご意向を忖度した、見方によっては滑稽とも思える文章を書いていた。

リンク先の全文は、読者のみなさんの精神的苦痛に配慮して、あえて読む必要はないと忠告したい。彼女はなぜか「前川問題」と例の「ミサイル注意CM」を同じ枠内で論じているので、私も前半と後半の二回にわけて突っ込まざるをえなくなった。

今回はその前半部分である。以下、引用。

室井佑月「信じたい」〈週刊朝日〉

(前略)この国から倫理観が失われつつある。なにしろ、倫理観ゼロの安倍さんが総理だしな。(略)

読売新聞が、前川さんの出会い系バー出入りを報じたのは、どう考えてもおかしいし、あってはならないことだった。前川さんはすでに私人で、なんら犯罪性はなかった。

前川さんは、国家権力による行政の歪みを告発した人である。

その彼を、いかがわしい信用出来ない人間だと、新聞を使って印象操作したのだ。怖いことだ。 前川さんも、「読売、官邸のアプローチが連動していると感じた」といっていた。(略)※週刊朝日  2017年7月14日号

官邸の措置に救われた格好になった文部科学省

お馬鹿タレントがついにわれわれ国民に対して道を説いて下さるようになったのか、というオドロキはともかく、官邸が反逆してきた前川氏の信用を貶めようとしたのではないか、という推測に関しては、私も前川氏当人と室井氏に賛同する。

これはいかにも政治的な謀略に思われる。私は別に官邸機密費を貰っているわけではないので、この点に関してはいささかも遠慮する必要はない。

しかしながら、私が両名と異なるのは、「もともと揉み消していたのがおかしい」と考えることだ。

前川氏は、この件に関して、昨年の秋に、杉田官房副長官から注意を受けた経緯を明らかにしている。つまり、現役時代に発覚した事案だ。

これは、彼の社会的地位や職責からすると、明らかに大きなスキャンダルと思われる。だから、発覚したその時点で、人事権を握る官邸側の政治判断として、即クビにして、文科省が記者会見を開き、国民に対して謝罪するという形式を踏むべきだったと思う。

だが、そうせずに揉み消した。それは、政権的にマイナスだと、当時判断したからではないか。私的には、そもそもそれがおかしいと、そこに突っ込みたい。

おそらく、官邸が封印しなかったら、「文科省トップたる者がそんなことを!」という非難が巻き起こり、前代未聞の、それこそ同省設立以来の騒ぎに発展していたと思う。

当然、文科省の信頼は地に落ち、職員たちも世間に顔向けできなくなっていた。

だいたい、内容的にも格好の週刊誌ネタだ。週刊文春なんかは今の姿勢とは逆に、「出会い系官僚の夜のXXX指導!」などと、面白がって書き立てていたに違いない。

朝日新聞と山本太郎とその仲間たちも、天下り問題の件とあわせて、格好の政権批判の材料と見なしただろう。なにしろ、そんなハレンチ高官を文科省事務次官に任命したのは内閣人事局なのだ。よって最終的な任命責任は総理大臣にある。

だから、「よっしゃー、これで安倍の責任を追及できるぞー」と狂喜乱舞して、先頭に立って前川氏を個人攻撃していたことは想像に難くない。

当然、その急先鋒グループには、女性の人権蹂躙問題だと見なして、ことのほか人身攻撃に張り切る、室井某や香山某や辛某の顔もあったと思われる。

彼らが今現在、前川氏を擁護しているのは、彼が政権に反旗を翻したからに過ぎない。

要は、そういう事態が予想されたから、菅官房長官――あくまで憶測――は事件の封印を決断したのではないか。

今言ったように、それは問題だが、しかし文科省的には大恥をかかずにすんだ。実際、内心で「助かった」と、ほっとしている職員も多いのではないか。

そう考えると、これは文科省的にも名誉の救済措置になっていた。

とすると、もし、前川氏に古巣を少しでも愛する気持ちがあるなら、わざわざ時期をずらして公表した菅官房長官の慈悲深い対応に対して、深謝してもいいのではないか。

結局「貧困調査ではなかった」と認めた前川元事務次官

ちなみに、この「出会い系バー」通いの真相については、あっけなかった。

2017年7月10日、前川元事務次官が国会での証言に及んだ。

前川氏は、いわゆる「貧困調査」の件について、「日本維新の会」の丸山穂高衆議院議員の質問に対して、次のように答えた。

「えまあ、調査という言葉遣いは、たしかに、あまり適切ではなかったかもしれません。まあ、わたくしとしては、個人的な行動はですね、えー、どうしてこの全国紙で報道されるのか、この件につきましては、わたくしも記者会見などで明らかにしていますけども、昨年の秋に、すでに、杉田官房副長官からは、あーその、事実関係について聞かれ、またご注意も受けたという経緯がございます。そのことがなぜ5月22日の読売新聞に出たのかと、このことを、わたくしは問題にすべきだというふうに思っています」

回りくどい言い方だが、要は、貧困調査ではなかった又は少なくともそれが主目的ではなかったと本人が認めた、ということ。

しかも、自分で「個人的な行動」と断った。つまり、やっていたことは職務ですらなかったわけだ。すると彼はいったい「何」に勤しんでいたのだろうか?

ちなみに、室井氏は、こんな前川氏の倫理観のほうは気にならないのだろうか?

いずれにせよ、これで私としても、前川氏について書いてきたこと(こちら)を一切訂正する必要はなくなったわけで、その点ではほっとしている。

逆に、「前川さんがやっていたのは貧困調査だ」と必死で擁護していた者たちは、二階に上がって梯子を外された格好だ。まさか本人が違ったと認めた後でも、そう強弁し続けるわけにはいくまい。可及的速やかに己の過ちを率直に認めるべし。

というわけで、この件に関しては、議論は終わった感がある。私としては「学校総出会い系バー化」が前川氏の置き土産にならないことを祈るばかり。

前に述べたことを蒸し返して恐縮だが、今回の件は日本社会に根深い傷を残した。

前川氏は全国の学校の教師と生徒たちをまとめ上げる総責任者だった。その公教育の頂点にいる人物が、暴力団経営の変な店に出入りし、バレると適当な嘘をついてごまかした。しかも、テレビに出ている有名人たちがこぞってそれを擁護した・・。

そういう構図である。当然、朝日新聞や室井氏もその一員である。

子供たちはそういう大人社会をよく観察している。言ってみれば、そういうことをしてもいいんだと、大人社会が子供たちに太鼓判を押してしまった格好だ。

この国から倫理観が失われつつある? たしかにそうかもしれない。しかし、普通に暮らしている私たち庶民は、前川氏や室井氏を見てそう思うのだ。

後半につづく ※アゴラ編集部より:他サイトに移ります)

(フリーランスライター・山田 高明 個人サイト「フリー座」 )