エクソン:財務省を提訴、ロシア制裁違反200万ドル罰金を巡り

ティラーソン国務長官がCEOだった時代の契約が制裁違反とされたエクソンだが…(Wikipedia:編集部)

日経が「米財務省、ロシア制裁違反でエクソンに罰金2億円」という記事を掲載していた(7月21日8:43)。記事の最後に「エクソンは20日に発表した声明で契約は政権の指針に基づいており違法性はないとの認識を示した」とある。

「それで?」というのが筆者の第一印象だった。
筆者の知るエクソンは、違法性がないと判断しているなら、必ず正当であることを財務省に認めさせる、すなわち裁判を起こす、に違いないからだ。

今朝、FTが「提訴した」という記事を掲載しているのを発見した。”Exxon sues to stop $2m over Russia sanction” (July 21, 2017, Jessica Dye in New York, Ed Crooks & David Sheppard in London) がそれである(Edはロンドンに移ったのか!)。

読んでみると、エクソンが争点としているのは、財務省が問題としている法的文書にサインをしたときには、ホワイトハウスおよび財務省のロシア制裁に関するガイダンスに従っていた、それを事後に解釈を変えて、あれは違法だったというのはおかしい、ということだ。

気になったのでエクソンのHPを覗いてみた。すると、7月20日2:53pmEDTのNews Releaseがあった。タイトルが「エクソンモービル、ロシア制裁に関するガイダンスを遡及して変更したことに異議申し立て」となっている。

あれ? 日経が参照している「20日に発表した声明」は別のものなのかな?

明らかにこのNews Releaseを読んだ上で書いているFTの記事の要点を次のとおり紹介しておこう。

・ティラーソン(現国務長官)が最高経営責任者だった2014年に、ロシア制裁に反したとして課せられた罰金に対し、エクソンモービルはこれを不服として米財務省を提訴した。

・エクソンモービルは、ホワイトハウスおよび財務省のガイダンスと整合性のない形で大統領命令を新たに解釈しており、遡及して適用しているのは「根本的に不公正(fundamentally unfair)」だと非難している。

・ホワイトハウスおよび財務省のガイダンスは、ロシア制裁の対象となるのは、個人としてのイゴール・セチンと、個人としての米国人が取引を行うことであり、会社としてのRosneftあるいはRosneftの役員として代表権を持つセチンとの取引を禁じたものではない、ということだ。

・「セチンの個人的事業ではなくRosneftの事業に関している限り」BPの最高経営責任者であるボブ・ダドレー(米国人)がRosneftの取締役会にセチンと一緒に出席することは許される、というのがその一例である。

・これに対し財務省の海外資産管理局(Office of Foreign Assets Control)は、ロシア制裁に関する「簡単な文言(simple language)」は、セチンの個人的利害とプロフェッショナルな利害とを区別していない、としてエクソンの主張を却下した。

・2014年のロシア制裁は、ロシアのクリミア侵攻とウクライナ東部の部族を支援していることに対して発せられたもので、プーチンとその取り巻きの経済的利害に打撃を与えることを主眼としている。

・セチンは2004~2008年の間、プーチン大統領の副首席補佐官だった。

・エクソンは、2011~2013年の間、Rosneftと、西シベリアのBazhenovシェール、黒海の深海および北極海でのプロジェクトに関して取引を行っているが、米国のロシア制裁によりすべて中止に追い込まれ、1億ドルの損失を計上している。

・ティラーソンは2014年5月、株主に対し「一般論として我々は制裁を支持しない。なぜなら、よほど上手く実行しない限り有効ではないからだ」と発言している。


編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2017年7月22日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。