安倍晋三首相は、昨日(7月24日)の衆議院予算委員会での閉会中審査で、加計学園の特区への申請を知った時期について質問され、「1月20日に申請が正式決定した時点」と明言した。「腹心の友」の関係にある加計孝太郎氏と、頻繁に、ゴルフ、会食などを繰り返していた安倍首相が、加計学園が今治市の特区で獣医学部新設の申請をしていることを、最終的に加計学園が事業者に決定された今年の1月20日まで知らなかったというのは、常識では考えられないことであり、昨日の国会での安倍首相の答弁の中で特に注目されている。
昨年10月以降、獣医学部新設を認める条件として、「広域的に獣医学部が存在しない」「平成30年4月設置」などが設定され、「加計ありき」であった強い疑念が生じていることを受け、それらが安倍首相自身の「加計学園への有利な取り計らい」であったことを否定することが目的なのであろう。
なぜなら、昨年9月9日の国家戦略特区諮問会議の時点で、安倍首相が、加計学園の特区申請を認識していたとすると、そこでの議長の安倍首相の指示が、加計学園の獣医学部新設に便宜を図ったものであることを、事実上認めざるを得なくなるからだ。
7月8日の【激論!クロスファイア】で高橋洋一氏の「挙証責任」「議論終了」論をめぐって議論した際にも、昨年9月9日の諮問会議での安倍首相の指示のことを指摘した。(【加計問題での”防衛線”「挙証責任」「議論終了」論の崩壊】)
民間議員を代表して八田達夫氏が
獣医学部の新設は、人畜共通の病気が問題になっていることから見て極めて重要ですが、岩盤が立ちはだかっています。
と発言したことを受けて、安倍首相は、会議の最後に
本日提案いただいた「残された岩盤規制」や、特区での成果の「全国展開」についても、実現に向けた検討を、これまで以上に加速的・集中的にお願いしたい。
と発言している。そして、それを受けて、獣医学部新設の問題を本格的に議論するために開かれた9月16日のWGの冒頭で、藤原豊次長(内閣府地方創生推進事務局審議官)が、
先週金曜日に国家戦略特区の諮問会議が行われまして、まさに八田議員から民間議員ペーパーを御説明いただきましたが、その中で重点的に議論していく項目の1つとしてこの課題が挙がり、総理からもそういった提案課題について検討を深めようというお話もいただいております。
と発言している。つまり、実質的にこの日のWGから始まっている獣医学部新設に関する議論は、「9月9日の諮問会議での安倍首相の指示」によるものであることを、藤原氏が明言しているのである。
この時点で、安倍首相が、加計学園が特区申請をしていることを認識していたとすれば、その指示によって加計学園に便宜を図ったことが否定できなくなる。
「広域的に獣医学部が存在しない」「平成30年4月設置」などの条件については、担当大臣の山本幸三氏が、「安倍首相の指示・意向は一切なく、自分が決定した」と言い続け、徹底して安倍首相を守り抜く姿勢をとり続けている。そういう意味では、一応、ディフェンスが存在している。しかし、9月9日諮問会議での安倍首相発言と、それを受けての9月16日のWGでの藤原氏の発言は、八田氏などが強調する「議事録などに残された透明なプロセス」の中でのことなので、ディフェンスのしようがないのである。
安倍首相側では、昨日の閉会中審査に出席するに当たって、どのような答弁をするかを十分に検討したはずだが、そこで「9月9日諮問会議での安倍首相指示」のことが意識されたのかもしれない。
しかし、常識的に考えても、構造改革特区で何度も獣医学部新設の申請をしていることを知っていたのに、それを国家戦略特区では申請していたことを知らなかったということは考えられない。
しかも、安倍首相は、加計氏と、新たな学部への「挑戦」の話をしたことは認めているのであり、「その学部は何か」ということを親しい間柄で、話さないということは考えられない。安倍首相は「相談も依頼も受けたことはない」としきりに強調しているが、ここで問題となっているのは、加計学園が今治市で獣医学部を新設しようとしていることを認識していたか否かなのである。
国会で、そのような常識では考えられない内容の答弁をしたことは、安倍首相にとって「危険な賭け」だったと言わざるを得ない。
私個人としては、規制緩和における「挙証責任」論や国家戦略特区の在り方に関する議論が取り上げられることを期待していただけに、若干残念であるが、安倍首相側が、防衛線を敢えて「1月20日」に設定した以上、そこが当面の最大の攻防の焦点になることは避けがたいであろう。
今日の参議院での閉会中審査では、この点は野党側からの追及のポイントになるであろうし、仮に、それを耐えしのいだとしても、その不合理性は明らかであって、どう考えても、「加計学園の特区申請は今年1月20日に知った」という話が維持できるとは考えられない。
安倍首相にとって将棋の盤面は、「詰将棋」の状況に入ったと言わざるを得ないだろう。
編集部より:このブログは「郷原信郎が斬る」2017年7月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は、こちらをご覧ください。