【映画評】君はひとりじゃない

妻を病気で亡くし喪失感に囚われた中年の検察官ヤヌシュは、陰惨な犯罪現場に立ち会っても、人の死に何も感じなくなっていた。娘のオルガは心も身体も病み、摂食障害になっている。父と娘の溝は深まるばかりだ。やせ細ったオルガの様子を見かねたヤヌシュは、精神病院に入院させるが、そこで風変わりなセラピストのアナと出会う。アナ自身も過去に子どもを亡くし心に大きな傷を抱えていたが、アナには死者と交信できる不思議な能力があった…。

家族の死から父と娘が再生していく姿を、超自然的視点からみつめるヒューマン・ドラマ「君はひとりじゃない」。ポーランドの俊英女性監督マウゴシュカ・シュモフスカ監督が、ベルリン国際映画祭で、最優秀監督賞を受賞した本作は、家族愛という普遍的なテーマを、霊媒師や心霊描写(と呼ぶにはあまりにもささやかだが…)を織り交ぜて描くという、かなりユニークな手法をとっている。精神的支柱だった妻の死を受け入れられずに苦悩する父はメタボ体型だが、一方の娘はやせ細りやつれていく。こういう目に見える肉体形状で親子の溝の深さを表すのがまず面白い。父と娘は互いに孤独なのだがどう接していいのがわからないのだ。かなりシリアスな状況なのに、彼らに手を差し伸べるのがなんと“霊媒師”である。この唐突感が、これまた面白い。

川辺の木で首を吊って死んだ男がなぜかむっくりと起き上がり、どこかへ歩き去る。アパートで転落したはずの少年は、静かに微笑んでたたずんでいる。ここでは死者と生者は当たり前のように同居している。死者は、ホラー映画のようにショッキングに登場するのではなく、ごく自然にそこにいる。まるで自分の死に気付いていないかのように。それはオルガやヤヌシュが、生きていることに無感覚になっている様とも共通する。はたして父と娘の絆は再び結ばれるのだろうか。

ラストは、あきれるほどあっけらかんとしていて、場違いなユーモアに満ちている。だがオルガとヤヌシュのまなざしは確かに交錯し、今までお互いの存在に嫌悪感しか抱いていなかった二人はしっかりとみつめあった。この物語の超常現象とは、衝撃的なものではなく、孤独だと思い込んでいた世界は、数多くの命や愛で満ちていると気付かせることなのかもしれない。決して分かりやすい感動はないし、むしろヘンテコな作品の部類に入る。それなのに不思議と心に染み入る。忘れられない映画になりそうだ。
【70点】
(原題「Body/CIALO」)
(ポーランド/マウゴシュカ・シュモフスカ監督/ヤヌシュ・ガヨス、ヤヌーシュ・ガヨス、マヤ・オスタシェフスカ、ユスティナ・スワラ、他)
(ユニーク度:★★★★★)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年7月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。