いまや、AIが僕たちの生活に与えている影響は、実に広い範囲にわたっている。当初、僕が想像していた範囲を大きく超えていた。自動車の自動運転はもちろん、流通、医療、介護、そして農業など、現在、あらゆる分野にAIが導入されている。
たとえば農業だ。これまで農作物の収穫や選別などは、人の手でしかできないとされてきた。ところが、これらの労働を担うロボットが、すでに生まれているのだ。農家の人たちが使えるようになるには、まだ価格の問題がある。だが、問題はそれだけだから、そこがクリアされて、農作業にロボットが取り入れられるようになれば、重労働に難儀してきた農家の人にとっては大助かりだろう。なによりも、高齢化が進み、衰退する日本の農業をAIが変えるかもしれないのだ。
しかしながら、一方では、「日本人の半数近くがAIに仕事を奪われる」というレポートも出ている。本当のことかどうかはわからないが、僕はまったく悲観していない。
これまで人類は、産業革命を経て、数々の技術革新を成し遂げてきた。そのなかで、次々に人間の仕事を機械が担うようになっていった。だが、機械に仕事を奪われても、それに替わる新たな仕事が生まれてきたのだ。いや、人間が必ず生み出してきたといっていい。それが「イノベーション」なのだ。そう考えると、悲観どころか、僕はむしろワクワクする。
ただし、ひとつ強い懸念がある。AIの兵器利用だ。
AIに詳しい若手実業家の塩野誠さんは、「米空軍では1990年代後半から武装無人航空機(プレデター)を運用し、近年は中東で遠隔操作のドローンによるテロリストに対するターゲットキリング(標的殺害)を行っている」と、ある雑誌で語っている。戦闘区域での任務は、「IT技術によって無人化が進められてきた」とのことだ。
無人兵器はすでに実用化され、さらに、AIを利用した兵器の「自律化」が実現するという。塩野さんによると、「米空軍は2047年までに戦闘機は完全自律化されると、2009年発表の計画で述べている」ということだ。兵器が自律化するということは、つまり、人間の判断や指示なしに、兵器が人を殺す可能性があるわけだ。
「急速に進展する兵器の無人化、自律化について、グローバルな規制はどうなっているのだろうか」と塩野さんも危惧している。AI化が進むなかでの倫理問題が、とても重要な課題になると僕も考える。
AIは倫理を持たない。したがって、暴走する可能性は大いにある。それを人間が阻止できるのか。これは、もはやSF映画ではないのだ。
たとえば、もし戦争で自律型兵器が使用されたら、どうなるのか。そして、もし人間による歯止めが効かなくなったら、どうなるのか。僕たちも真剣に考えなければならない、重大な問題である。
編集部より:このブログは「田原総一朗 公式ブログ」2017年7月31日の記事を転載させていただきました。転載を快諾いただいた田原氏、田原事務所に心より感謝いたします。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「田原総一朗 公式ブログ」をご覧ください。