「一生車なんていらない」と思っていたが、田舎の運転は…

黒坂 岳央

写真AC(編集部)

私は学生時代、社会人時代は東京、アメリカ(シカゴのループ)、大阪と人生のほとんどを都会で生活をしてきました。これらの場所では車はまったく必要性を感じません。18歳で免許証をゲットした時の私は有頂天になっていて、

「早く自分の車に乗って自由に走り回ってみたい!」

そう思ってワクワクドキドキしながら車のカタログを見ていました。ですが車への熱はどこへやら。免許をとったのはいいものの、冷静に考えると色んな問題が立ちはだかっていることに気付きます。

「駐車場は月額何万円もいるのでもったいないな…」

「仕事(や学校)が忙しくて、週末だけしか乗らないならレンタカーで十分だ!」

そんなことを考えてしまい、これまでは国内外の旅行へ行くにレンタカーを借りて乗る程度となってしまい、一年に一度ハンドルを握る

「ペーパードライバーすれすれ」

という体たらくでした。運転免許証は当然ゴールド!友人には「ゴールド免許取れたよ!」と自慢するものの、「乗ってないからでしょ!」というツッコミが返ってくる始末です。東京で会社員をやっていた頃は「車なんて一生いらない」と思っていた私ですが、熊本県に移住して事業者として取り組んでいる今、 「車は意外とアリだな!」という感覚に変わってきました。

都会人が「車はいらない」というのは高コストすぎるから

ちょっと前まで都会人だった私は「車が必要だ」 と感じたことは一回もありませんでした。

東京に住んでいればショッピング、学習、仕事、交友関係など全てが電車で事足りてしまいます。電車は自分が運転する必要はありませんから、居眠りをしても本を読んでも危険はありません。値段もめちゃめちゃ安いし、仕事の定期券を活用すれば休日のお出かけは交通費ゼロ!ということも余裕です。

しかし、これを電車の代わりに車で済ませるとなるととんでもなく高コストになります。東京都内は早朝から道路はメチャ混み、事故や渋滞を想定すると家を出るのはかなり早くなければいけません。そして一番の問題は駐車場!銀座は一時間の駐車で3,600円という画像を見たことがあります…。ゆっくりお買い物なんてムリムリ!港区は月極駐車場が5万円超という金額で、どう考えても一端の会社員にはキツすぎます!

車本体で数百万、保険や車検などのランニングコストだけでは収まらない駐車場代、これがあまりにも重くのしかかります。必要な時にレンタカーで済ませる、というのは合理的どころかその選択肢しかないと思えるくらいです。

都会人が「車なんて必要ないよ」というのは欲しくないからではありません。あまりにも高コスト過ぎるからです。

田舎のドライブは移動する書斎みたいなもの

「田舎は車がないと生活が出来ない」

このことは私がここで多くを語らずとも、あなたもよくわかっていると思います。東京ではめちゃめちゃお世話になった牛丼チェーンも、ここ熊本では車で20分走らないと最寄りのお店に行けません。まさか牛丼を食べるのに車を走らせないといけないとは、住んでみるまで夢にも思いませんでした(笑)。

必要に迫られて社有車を購入し、オフィスやその他の移動に車を使うようになって気づいたことがあります。それは「車に乗ると頭がスッキリする」ということです。これは田舎暮らしを始めて、車に乗ったことで始めて得られた感覚です。田舎ですから渋滞はありませんので、移動は常にスイスイ快適です。それでいて、田園風景や遠くに見える阿蘇山が心地いい視覚刺激になっているように思えます。車の中でお気に入りの経済評論家のネットラジオを聴き、沈みゆく夕日を見ていると仕事の疲れを忘れて心が洗われるように感じます。

昔、青春18切符を買ってどこまでも鈍行電車で移動していた時の感覚に少し似ていると思いました。どこまでも広がる畑や山、海を眺めながら各駅停車の電車内で

「今は青春真っ只中を生きている。これが青春なのだな」

「10年後はどんな人生を送っているだろうか?」

「今の自分は人生を心から楽しんでいるだろうか?」

などいつの間にか一人哲学を始めていました。目に優しい青と緑の自然色と、移動中であるがゆえに他に何もできないという状況が作り出した「哲学空間」です。

車は移動する書斎みたいなものかもしれません。PCがあるとついつい調べ物やアウトプットに時間を使ってしまいますが、運転中はそれが出来ませんからひとり静かな哲学タイムとして楽しんでいます。

大人はひとり静かに考える時間を持ちたい

一人で静かな空間でゆっくりと自分自身の人生について考える、年齢を重ねるとどうしても難しくなってくることだと思います。

一生懸命仕事や勉学だけをやっているだけでなく、結婚相手や子供、両親のこと、お金や病気などどんどん考えるべき大きな事項が増えていきます。学生時代、早朝から夜中まで勉強だけをしていたものですが、今は仕事だけをやっていればいいというわけにはいかなくなりました。起きているあいだじゅう、人生の課題についてずっと考えたり調べたりしていて、どうしても哲学は後回しになってしまいます。

「人生どう生きるか?」

「今後の人生で何をしたいか?」

「心を楽しませる続ける工夫は?」

など人生を生きていく上での核となる部分は、とっても重要なはずなのに日々の仕事や家事に追われてしまうとどんどん後ろへ下がっていきます。

でも車の運転中は仕事や家事などからは完全開放される贅沢な「哲学タイム」になります。

「哲学は何も生み出さない、ムダな時間」と思う人はいるかもしれませんが、「人生をどう生きるか?」という軸があってこそ自分自身が望んだ人生の選択ができるのだと思っています。田舎で車の運転をするというのは、都会で考えていたよりずっといいものだと思って今日もハンドルを握って出発したいと思っています。


黒坂 岳央 フルーツギフトショップ「水菓子 肥後庵」 代表
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。ブログでも情報発信中。

ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。