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【映画評】夜明けの祈り

渡 まち子
2017.08.07 06:00
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映画
INNOCENTS [DVD]

1945年12月のポーランド。若く聡明なフランス人女医マチルドは、負傷した兵士たちを治療し故国へ帰すため、赤十字の施設で医療活動を行っていた。ある日、マチルドは、悲痛な面持ちの見知らぬ修道女から助けを求められ、遠く離れた修道院へと向かう。そこでマチルドが目にしたのは、ソ連兵に凌辱され身籠った7人の修道女たちの姿だった。信仰と現実の狭間で苦しむ修道女たちを救うため、マチルドは、激務の合間を縫って修道院に通い、孤立し苦悩する修道女たちに寄り添うと心に決める…。

ソ連兵に暴行され身籠った修道女たちを救おうと、仏人女医が苦難に立ち向かう姿を描く人間ドラマ「夜明けの祈り」。第二次世界大戦末期にポーランドの修道院で実際に起こった衝撃的な事件がベースになっている。モデルとなったのは実在の医師、マドレーヌ・ポーリアックだ。修道女たちが、専門医を呼ぶべきとのマチルドの提案を拒むのは「これもまた神の意志」という悲痛な思いと、このことが世間に知られると修道院は閉鎖された上に、自分たちの恥をさらすことになる現実に怯えているからだ。秘密を知る唯一の存在となったマチルドは、過酷な状況を理解し、彼女たちに寄り添うと心に決める。医者という職業のためか頑固者で合理的、無神論者のようなマチルドが、修道女たちの希望になっていくという展開が興味深い。

見ていてつらいのは、修道女たちは被害者でありながら、強い信仰心ゆえに、これは自分自身の罪だと自らを責めることだ。信仰と妊娠は決して両立しないのに、出産後に我が子を抱いて芽生える母性が、さらなる葛藤を誘うのも、やるせない。立場の違いから起こった悲劇を経て、生まれてきた尊い命のため、また、共に困難を乗り越え固い絆で結ばれた修道女たちの未来のため、マチルドが提案したアイデアは、現実的かつ画期的な救いだ。美しく知的な女医マチルド役のルー・ドゥ・ラージュ、陶器のように白い肌の横顔が印象的なアガタ・ブゼクら、女優たちは皆好演。何より名撮影監督カロリーヌ・シャンプティエの手腕が大きい。シャンプティエが手掛け、同じく信仰をテーマにした「神々と男たち」にも通じる静謐で荘厳なカメラワークに、魅了された。この物語に登場する女性たちは、国籍や宗教の違いを超えて芽生えた固い絆で結ばれている。間違いなく、アンヌ・フォンテーヌ監督の代表作になるであろう秀作だ。
【80点】
(原題「LES INNOCENTES/THE INNOCENTS」)
(仏・ポーランド/アンヌ・フォンテーヌ監督/ルー・ドゥ・ラージュ、アガタ・ブゼク、アガタ・クレシャ、他)
(崇高度:★★★★★)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年8月6日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式Facebookページから)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。

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