電気自動車が挑む石油需要の伸び

Tony Hall / flickr(編集部)

「19世紀後半、米国で石油生産が始まったころ、ガソリンは(ランプ用)灯油の役立たずの副産物で、燃やされるか川に捨てられるかであった。自動車の大量生産が始まり、事情は変化した。だが、100年を経た今、社会を大きく変えた石油と自動車の関係がほつれ始めている」

昨日(8月8日)掲載されたFTの記事は、このような書き出しとなっている。原題は “Rise of electric cars challenge the world’s thirst for oil” で、”Proposed bans on petrol and diesel vehicles bring further pressure to bear on Big Oil” というサブタイトルがついている。

つい先ごろ、英仏両政府が、2040年までにガソリン車、ディーゼル車の新車販売を禁止する計画だと発表したことを受け、Big Oil(国際的大手石油会社)の見方および対応策などを分析して報じているものだ。

結論は、需要ピークが来るのは間違いないが、問題はいつ来るか。この不確実性のなか、Big Oilはどう対応すべきなのか、ということのようだ。

今後の展開を読むための最重要要因は、バッテリー技術のイノベーション速度と中国およびインドの政策対応、ということになるのだろうか。

読者の皆様にもぜひご一読願いたい記事である。

スペースの許す限り要点を紹介しておこう。

・シェルのChief Executive(社長)であるBen van Beurden(バーデン)は、低コストで生産できるプロジェクトだけが競争力を維持できるのだから、どの油田を開発するのか、峻別すべきだ、という。「需要がピークを迎え、減少し始めるという時代にも強靭なプロジェクトだけを追求すべきだ」「いつ起こるか? それは分からない。だが、本当に起こるか? 間違いなく起こる」

・バーデンは「需要ピーク」は、電気自動車(EVs)の増加が最も早く進むケースでは2020年代後半にも訪れる、という。だが、そのためには、気候変動にもっと積極的な政策対応がなされ、バッテリー技術の革新的イノベーションが今までよりも早く実現することが必要だ、とも。

・石油産業の多くの人々は、(EVsへの)移行にはもっと時間がかかる、と見ている。エクソンモービルは、ペースは落ちるが石油需要は2040年代まで伸び続けるとみている。

・どれが正しいシナリオかは多くの要因によるが、自動車の将来がもっとも重要だ。IEAによれば、2015年の乗用車用の需要は26%で、航空用、船舶用および石油化学用を合算したものより多かった。

・(英仏政府の計画以外にも)自動車会社のコミットメントもEVsを後押ししている。ボルボは先月、2019年以降の新モデルはすべてEVsかハイブリッドにすると発表した。テスラは巨大市場を目指した35,000ドル価格のModel-3を投入すると先月発表している。

・だが、Big Oilの運命を握っているのは英仏政府でもテスラでもない。IEAによれば、2015年から2040年までのあいだ、OECDの石油需要は12%減少するが、非OECDの需要は19%増加し、2040年には全体の60%を占めることになる。

・バーデンは「インフラもないし、インフラを整備する冨もないless advanced economiesがたくさん存在している」として、自動車所有が急増する途上国では内燃エンジンの需要の方が強いだろう、という。

・BPの社長Bob Dudleyは、EVsの増加は「避けられない」が、これから何十年も従来型の車が支配的だろう、という。「EVsは2035年までに1億台、あるいは2億台と予測するが、まだ20億台の従来型の車が走っている」

・サウジアラムコの社長、Amin Nasserは先月「従来型の燃料がシェアーを失うとしても、歴史は需要の絶対量は伸び続けることを教えている」と語った。

・以上のような異なった予測の下、石油会社は戦略的ジレンマに襲われている。すなわち、タバコ会社が減少する市場で利益を出し続けているように、落ち込んでいく事業(sunset business)からの利益極大化を図るべきか、それとも再生エネルギーへの移行に向けて、リスクがある巨大投資を行うべきか。

・Big Oilはまだ答えを出すには早すぎる段階にいる。シェルは後者のシナリオに賭けている度合いが強く、毎年10億ドルを代替エネルギーに投じている。同社の巨額の資本投資(Capital Expenditure)のほんの一部だが、バーデンは、必要なら加速する用意がある、という。「毎年200~300億ドルを投資している。2,800億ドルの会社だから、10年ごとに新しいシェルを作っているようなものだ。したがって、変化に適応する柔軟性を持っている。我々は行き場を失ったsitting duck(無防備な会社)ではない」と。


編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2017年8月9日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。