東芝に典型的にみられるように、日本の大企業は1970年代までのアメリカのコングロマリットと同じ、非効率な多角経営をしている。半導体部門が高い利益を上げても、他の部門の赤字を補填するので、全体としては東証1部上場企業のROE(株主資本利益率)は8%で、アメリカの12%に遠く及ばない。
PBR(株価純資産倍率)は平均1.3で、アメリカの半分だ。これは著者のいう「100円の入った財布を70円で売っている」企業がまだ多いことを示している。これが日本経済のボトルネックだが、逆にいうとその会社を70円で買って100円で売るだけで30円もうかる「伸びしろ」が大きい。
アメリカでも1980年代には企業買収が流行したが、社会の批判が強まり、ドレクセル・バーナムのインサイダー事件で、いったん壊滅した。村上ファンドとライブドア事件も有罪判決が下され、日本のTOB(公開企業買い付け)は激減した。アメリカでは1990年代に回復したが、図のように日本では今も2005年以下のレベルだ。
日本人は与えられた環境で部分最適化するのは得意だが、それが全体最適かどうかを判断する大局観が弱い。それを資本市場で是正するのが企業買収だが、経営者は「乗っ取り」を恐れ、持ち合いなどの買収防衛策を取る。経済産業省も「官主導」で企業を再編する産業政策が仕事なので、資本主義を排除しようとする。
著者は「インサイダー取引」の容疑で逮捕されて有罪が確定したが、東京地裁の一審判決の「被告人はファンドなのだから、安ければ買うし、高ければ売るのは当たり前と言うが、このような徹底した利益至上主義には慄然とせざるを得ない」という言葉は、歴史に残るだろう。
資本主義とは、安く買って高く売るシステムである。それによって上げた利潤で労働者の賃金が払え、税金も払えるのだ。拙著『資本主義の正体』でも書いたように、イギリスで生まれた資本主義は新大陸から安く買って世界に高く売る鞘取りだった。「産業革命」などというのはまやかしである。
日本の企業は戦後の一時期、アメリカの資本主義を輸入して高度成長を実現したが、その鞘は取り尽くし、今は企業そのものを再編するしかない。それはどこの国でも好まれないが、資本主義を拒否する限り、日本経済に未来はない。