厚労省によれば、2016年に自殺した人は、21,897人となり、22年ぶりに22,000人を下回った。年代別で見ると、15~39歳の死因第1位は「自殺」である。従来から、若者の自殺率の高さは指摘されていた。しかし、調査結果からは、若者の自殺以外に、中高年(40~50代男性)の自殺も顕著であることがわかった。
NHKスペシャルシリーズ「キラーストレス」という番組がある。知らないうちに、私たちの心と体をむしばむストレスを“キラーストレス”と名付け、メカニズムを最先端の知見で明らかにしていく内容だ。今回は、効果が実証されている「コーピング(ストレス対処)」について紹介したい。
心の病につながるストレスとは
大手家電メーカーのお客様相談室クレーム対応係だった堀北祐司(以下、堀北氏)が、ストレスによる、うつ病を発症したのは29歳のときだった。お客様相談室でトラブル処理を担当する「クレーム対応係」として仕事をこなしていた。クレームの電話は絶え間なく、そして次々に襲いかかってきた。
「責任者を呼べ!」「おい、これ不良品じゃないのか!」「お前の声が気にくわないんだよ!」「ふざけるな!」。時には何時間にもわたって罵倒され続けたこともあった。クレーム対応係は極めてハードな仕事だ。そして、かなりの適性が求められる仕事でもある。そんな仕事を4年間続けた頃、体に異変があらわれた。
「会社に向かう途中で、急にお腹が痛くなるんですよね。脇腹を手でつかみながら会社に行っていました。やがて、ぐっすりと眠ることができなくなりました。夜中に何度も何度も目が覚めます。睡眠不足のせいか、日中もうわの空で過ごす時間が増えました。気づいたら笑えなくなっている自分がいました。」(堀北氏)
「メンタルクリニックを受診してみると、『うつ病』の診断でした。精神科や心療内科の病院に心当たりもなくて、電話帳で探しました。まわりの人からは、『ノイローゼになったんか?』とか 言われましたね。まだまだうつ病が身近じゃない時代でした。」(同)
※ノイローゼ(神経症)は昔の疾患名で今ではほとんど使われていない。
厚生労によれば、働く人の6割が強いストレスに悩まされている結果が明らかになっている。メンタルの労災と認定された人の数は、この10年間で激増し、WHOは、「2030年に、うつ病が世界で最も社会的損失を生み出す病気になるだろう」と警告している。私たちは誰でもこの病を発症するリスクを抱えている。
早稲田大学の熊野宏昭教授によれば、心や体に影響を及ぼすストレスは、大きく2種類に分けられるとしている。「頑張るストレス」「我慢するストレス」である。特に、「我慢するストレス」は主に人間関係や心理的圧迫によって引き起こされる。このストレスは、心の病につながることから一層の注意が必要とされている。
コーピングでとうつ病の再発を防ぐ
堀北氏は、専門の医師のもとに1年間通って投薬治療などを受け、現在ではうつ病を克服している。治療後、始めたのがコーピングである。
「コーピングの手法は、自分の気晴らしを数多くリストアップして、ストレスを感じたときに実践することです。私は『公園や神社で木を抱く』『カラフルなペンで字を書く』『女性誌を読む』『ステーキの写真を眺めて食べた気分を味わう』などをあげました。リストの作成は自分を振り返る意味で効果的です。」(堀北氏)
「効果を実感する度に、レパートリーに加えていくことがいいでしょう。ポイントは自分の気分が上昇しそうなことをいつも意識して探すことです。」(同)
これは、言い換えれば、それだけ真剣にストレスに立ち向かってきたという証でもある。また、堀北氏は「どんな対処法でもまずは実践してみてほしい」と強調する。
「ばかばかしく思えるようなことでも、試してみるっていう感じですね。今日はこの気分かなとか、あの気分かなというように、心のチャンネルを変えて整えていく感じがいいと思います。ストレスを減らすための対策を毎日欠かさず続けることで、うつ病の脅威から遠ざかることが可能になります。」(堀北氏)
現在、堀北氏は家電メーカーを退職して、自らの体験とそれを克服した経験を元にストレス・マネジメントの研究家として企業サポートを行っている。本記事ではふれていないが、番組では「コーピング」以外に、もう1つの重要な対処法が紹介されている。それが、いま大ブームを巻き起こしている「マインドフルネス」になる。
日本における、「マインドフルネス」のブームは、本番組が火付け役になったと言われている。本書は、ストレス大国ニッポンに生きる人々に警鐘を鳴らす内容といえる。なお、本記事用に本書一部を引用し編纂している。
参考書籍
『キラーストレス 心と体をどう守るか』(NHK出版新書)
なお、新刊『007(ダブルオーセブン)に学ぶ仕事術』は、「007ジェームズ・ボンド」が社内の理不尽に立ち向かう想定で書き起こしたマネジメント本になる。社内の理不尽に対してどのように立ち向かい対応するのか、映画シーンなどを引用しながら解説している。
尾藤克之
コラムニスト
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